研究課題/領域番号 |
15K21612
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
石庭 寛子 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 特別研究員 (00624967)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アカネズミ / 次世代シーケンス / 放射線 / 次世代影響 |
研究実績の概要 |
福島県内において放射線の年間積算線量が20 mSv以上である帰還困難区域に生息するアカネズミ(Apodemus speciosus)を対象に、放射線によって誘引されうるDNA変異の次世代影響を評価した。本年度は、ddRAD(double digest Restriction Site Associated DNA Sequence)法を用いた変異解析手法の確立を行い、2013年に採集した妊娠メスのサンプルを用いて母仔間でのDNA変異解析を行った。 アカネズミのゲノム情報(Matsunami et al., unpublished)を用いてin silicoスクリーニングによる制限酵素の選定を行ったところ、KpnI/PstIの組み合わせがゲノムの0.19%をカバーし、かつタンパク質のコーディング領域の変異を最も多く評価できることが明らかになった。 次に、上記制限酵素を使用したddRAD法を実施した。解析は放射線汚染地域として福島県の帰還困難区域内、対照地域として富山県立山町および青森県十和田市からすでに採集済みのアカネズミのメス個体各3頭とその胎仔を用いた。各地域の平均被ばく線量は、福島 0.31±0.08 mSv/day (うち内部被ばく線量 0.05±0.00、外部被ばく線量0.26±0.07)、富山・青森 0.00±0.00 mSv/dayであり、福島で捕獲された個体はICRP(国際放射線防護委員会)が提示する誘導考慮参考レベル(0.1から1.0 mSv/day)に該当する値を示した。一腹当たりの平均胎仔数は福島 5.7±0.6、富山5.0±0.0、青森6.0±0.0個体であり、地域間に差は見られなかった。 各個体からDNAを採取し、KpnI/PstI で切断後、Miseqを用いてシーケンスを行った。本種は複数父性であることから、兄弟姉妹間で父方のDNAが異なることがすでに報告されている。野外において全父親を捕獲し、配列の比較を行うことは不可能であるため、父親側のDNA情報は不明であることを仮定し、母仔間の突然変異率を算出した。その結果、福島で捕獲された個体の母仔間の変異率は対照地域での変異率と差が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった解析効率の良い制限酵素の選定を行うことができた。また、その結果に基づいてサンプルの解析を進めることができた。 データ解析を行うプログラムについても、細部はまだ検討が必要な部分はあるものの、大まかなパイプラインの作成を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
解析方法は、ほぼ確立することができたため、実際のサンプルを用いた解析を進める。今年度はオス個体とその精子細胞との比較を行う予定である。 一方、データの正確性を高めるためにはサンプル数が多いことが望ましいが、次世代シーケンスの試薬代が高価であるために難しい状況となっている。この課題に対応するために、ゲノム支援や他の助成金への応募を積極的に行い、研究内容を充実させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンス用の試薬は1ランあたり20万円以上の費用がかかる。試薬は毎年価格変動があること、また、より多くのサンプルを処理できるように割引購入などを利用していたため、生じた次年度使用額は試薬代の端数である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の所要額と合わせて、試薬の購入にあてる。
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