イネは多量のケイ素(Si)を体内に蓄積して病害への耐性を高める機能をもつ。これまで、アフリカ広域に分布する強度の風化土壌を対象に、ケイ素欠乏とイネの病害発生および収量との関係を評価した事例はない。そこで、風化土壌が卓越するマダガスカル中央高地を対象として、2作期のべ34地点の農家圃場(陸稲11地点、水稲23地点)で、窒素とケイ素を組み合わせた施肥処理を設定し、ケイ素施用の効果を検証した。土壌のケイ素供給力の指標となる湛水保温静置法による水溶性ケイ酸量が13.8~117.5 mg kg-1の変異をもつ多様な圃場環境を網羅した。結果、ケイ素施用は、単独では有意な効果はないものの、窒素施肥と組み合わせた場合に有意な増収効果をもつことが分かった。また、陸稲圃場でより安定した増収効果がみられた。一方の水稲圃場では、処理の効果に有意な圃場間差がみられたが(増収量の変異が-0.15~0.91 t ha-1)、ケイ素施用効果の圃場間差異を定量的に説明できる土壌特性値は検出されなかった。いずれの試験においてもいもち病発生程度の処理間差はみとめられず、ケイ素施用による増収効果は病害抑制以外の要因が関与していることが示唆された。本研究により、熱帯の風化土壌を対象としたケイ素の施用効果は、窒素肥料との組み合わせ、および陸稲圃場で安定して期待できることが明らかになった。さらに、ガーナ北部の水稲圃場では、ケイ素施用による増収効果に有意な品種間差異があることが分かった。以上、熱帯の風化土壌が卓越する地域において、ケイ素施用の定量的な効果とその品種間差異を明示した極めて有益な成果が得られた。
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