本研究は、蛍光指紋分光法によって食品に関連した病原性細菌を迅速に検出する手法の開発するものである。研究代表者は近年、細菌に含まれる自家蛍光成分の蛍光指紋から、菌種に固有の自家蛍光パターンが存在し、代表的な細菌種を判別できる可能性を見いだした。本研究ではさらに多くの菌種においてその有効性を検証し、病原性細菌の迅速検査手法として応用するための基盤を確立することを目的としている。 本研究計画では、食品衛生に係わる各種細菌を対象として、その蛍光指紋ライブラリを構築し、菌種判別および菌数定量の手法開発に取り組み、新たな病原性細菌の検出手法として応用するための有効性を検証する。研究計画の進め方として、①蛍光指紋による菌種判別手法の開発、②蛍光指紋による菌数定量手法の開発、③ファイバプローブによる蛍光指紋計測と①②を組み合わせた迅速化のための多検体検査システムの構築、の3つの研究項目を実施する。 平成29年度における研究代表者の所属変更と進捗状況の遅延により、平成30年度まで補助事業期間の延長を行った。平成30年度では、引き続き②の手法の有効性の検証と③に取り組んだ。このうち②については、蛍光指紋によって、どの程度の菌数範囲を推定できるのかを調査した。その結果、従来的な手法である濁度によって推定できる生菌数範囲は 10^8から10^6 [cfu/ml] であるのに対して、蛍光指紋を用いることによって、低菌数側において10^4 [cfu/ml] 程度まで菌数の違いを捉えられる可能性が示された。装置や測定法によって感度を向上できれば、さらに低い菌数のオーダーを検出できる可能性がある。また、③については、開発費用と時間の観点から蛍光分光光度計の付属装置であるマイクロプレートリーダーを用いた細菌の蛍光指紋測定の試みを行ったが、①②の手法を組み合わせるまでには至らなかった。
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