研究実績の概要 |
【目的】「乳腺」は妊娠末期から血中ビタミンE(VE)を初乳へ多量に輸送し、VE体内動態を司る「肝臓」は分娩を境に代謝負担が増加し、機能が低下する。その結果、周産期にVE欠乏(低VE血症)が起き、免疫機能等が低下、周産期疾病発症リスクが高まる。申請者はウシ肝臓と乳腺においてVE輸送調節に関わる新規2分子『αTTP』『Afamin』の発現を見出した。本申請課題では周産期乳牛の肝臓および乳腺におけるαTTP、Afaminの発現特性を明らかにし、周産期疾病のリスク因子である低VE血症化の分子メカニズムを解明する。【最終年度の成果】1、周産期乳牛の肝臓におけるαTTPおよびAfaminのmRNA発現抑制は、Albuminや抗酸化酵素SOD-1,CatalaseのmRNA発現抑制や小胞体ストレスマーカーXBP1sおよび炎症応答マーカーHpの発現亢進と同期しており、分娩ストレスに伴う肝障害がVE血症化プロセスに関与する可能性が遺伝子発現レベルで明らかとなった。また、この時の肝臓の脂肪蓄積量はまだ低く、脂肪肝化による肝機能不全と分娩ストレス型肝障害は区分する必要性が示唆された。2、周産期乳牛の乳腺において、VEと特異結合するtocopherol associated protein(TAP)の発現挙動を新たに解析し、αTTP/TAP発現比が分娩直後の初乳合成期の乳腺において一過的に上昇しており、TAPによる結合競合が抑制されることでαTTPによる細胞内輸送が結果的に増加することが初乳へのVE分泌の増加に関与することが示唆された。3、ウシ初代肝細胞を用いてVEレベルとαTTPおよびAfaminのmRNA発現の関係性を調べたが、培養VE濃度による有意な影響は確認されなかった。以上、αTTP等の発現特性が周産期疾病のリスク因子である低VE血症化の分子メカニズムに関与することが明らかとなった。
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