研究課題/領域番号 |
15K21622
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新居 陽一 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (80708488)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フォノニクス / 磁気弾性結合 / 表面弾性波 / マルチフェロイクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、スピンと格子の自由度間の結合を考慮したフォノニクスの学理を構築し、メタマテリアルで実現されつつある音響ダイオード効果や熱ダイオード効果といった非相反応答を磁性体中で観測することである。本目的の達成には、高周波音響測定系の構築~表面弾性波(SAW)デバイスの作成といった準備段階と、表面弾性波の透過測定という二段階がある。本年度は、準備段階がほぼ完了し測定段階に移行できた。また予備的な測定ではNi/LiNbO3の人工マルチフェロイクス系において非相反伝搬を観測した。以下具体的に説明する。 フォノン系とマグノン系を有効的に結合するためには、分散が交差する周波数(>GHz)の弾性波を励起する必要があり、本研究ではLiNbO3上に作成した櫛型電極にマイクロ波を投入することで、2GHz以上のSAWの励起に成功した。励起されたフォノン周波数はゼロ磁場ではNiのFMR周波数を超えている。加えて構築したホモダイン検波系によってパルス変調したGHz音波を入射することで、電磁ノイズとSAW信号を時間軸で分離し、高い精度でSAWの複素透過率を得た。磁場を印加するとNiのマグノンバンドが上昇し、フォノン系との実効的な相互作用が変調される。このとき途中の反交差する磁場領域において、大きなSAW吸収および位相速度低下を観測した。これはSAWによって誘起されたFMRに対応する。また透過信号はSAWの進行方向を反転することで差異がある、非相反応答が認められた。この音響ダイオード効果はSAW進行方向に対して45度付近で最大となることがわかり、これはSAWによる楕円偏向フォノンに由来することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マイクロ波領域のホモダイン検波系を構築し、GHz領域のSAWのパルス信号検出に成功した。加えてNiのFMR以上の2GHzフォノンによって音響的FMRを観測できた。またこの共鳴を利用することで±kでSAW伝搬特性が異なる音響ダイオード効果の観測にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
マグノン系とフォノン系が連成波をなした強結合領域のフォノニクス実現を目指し、三つの方針をとる。一つ目は、10GHz級の高周波SAWの励起により、磁化が成長した領域におけるマグノンバンドとの反交差を見る。二つ目はマグノンの寿命が長い磁性絶縁体とフォノンが結合する舞台を準備する。三つ目は、高密度のフォノンを励起するためデザイン性に優れた表面弾性波デバイスを応用してSAWの定在波モードを励起する。これらにより非相反な低速フォノンや反交差による非対称なフォノニックギャップの観測を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
表面弾性波測定用のマイクロ波素子の購入を制限にしたことに加え、単価を抑えられたため。また次年度使用する寒剤費用が予定より大きくなりそうであり、そのために蓄えが必要であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験を遂行するための寒剤購入費用にまずは充てる。年度の中期以降、その他の利用ができそうな場合、本年度構築したマイクロ波測定系を拡張するための素子など備品を購入する予定である。
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