研究課題/領域番号 |
15K21627
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小林 琢磨 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (80582288)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | motor skill learning / 行動予測 / brain machine interface / wearable instrument / Ca2+ imaging / 光遺伝学 / 遺伝子改変マウス / 身体補綴装具 |
研究実績の概要 |
研究代表者の異動に伴い前研究プロジェクトの最後の一部が一時停止状態となっていたが、新たに研究活動の場を得て、また本科研費をいただけた事により完遂することが出来たことを感謝したい。 本研究では肢体不自由障害者への治療・リハビリ機器における従来の課題の克服を目指して、脳内埋植型の双方向光情報伝達デバイスと随意運動知覚装置とを開発し、実際に動物の生体脳に適用することで試験運用する事を目的としている。これまでの研究において、脳内に低侵襲的に長期埋植可能で神経細胞の活動を光学的に計測すると同時に光学的に刺激することが可能な微小半導体デバイスを試作した。このデバイスを、神経細胞の活動を光計測するための蛍光指示タンパク質と、光刺激するための光感受性タンパク質とを併せて使用することにより、培養細胞と脳内移植細胞において、そして動物の生体脳の神経細胞において運用した。この結果、このデバイスを介して光学的に神経細胞と情報伝達することが可能であることを実証した(Kobayashi et al., 2016)。また、随意運動装置として動物用の小型モビリティを試作した。この小型モビリティは動物の体の運動と連動して稼働させることができるような機構を備えているために、動物が体を動かすことで移動することができる。まずはこの装置を用いて、動物が自由に操縦して好きな場所に到達できるようになるかどうかを検証することにより、デバイスと小型モビリティを連動して評価するためのシステムを構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
青色光感受性遺伝子ChR2と、細胞内Ca2+濃度に応じて蛍光強度変化する赤色蛍光指示タンパク質遺伝子R-GECO1とを、培養神経株細胞Neuro2aあるいはPC12に共導入した。神経細胞は活動に応じて細胞内Ca2+濃度を変化させるため、青色光刺激時に緑色励起光を照射しながら赤色蛍光強度変化として神経活動をreal time計測出来る。蛍光強度変化の大きな赤色蛍光指示薬もあり適用が簡便なため実際に複数使用比較したが、いずれもやがて細胞外に排出されるため長期計測にはリロードを要する。生体脳組織で安定計測するにはgenetically encoded Ca2+ indicatorが将来AAV臨床適用への期待からも好ましいと考えた。 脳組織を模すため遺伝子共導入細胞を細胞外基質ゲル包埋しセンサ上で3D培養し、光刺激と蛍光計測を行った。至適培養条件はゲル内で細胞を分化、突起伸長させて検証した。また、センサに実装したLEDによる光刺激範囲を定量した。引き続き生体脳環境で検証するため、遺伝子共導入細胞をシート状あるいは塊としてマウス大脳皮質に生体移植して検証した。最後にin utero電気穿孔法で遺伝子共導入したマウス大脳皮質で検証したが、蛍光変化量が低く計測が困難だった。このため蛍光変化量のより高いCAR-GECO1、R-GECO1.2、O-GECO1を新たに入手した。これらをHela細胞に導入し、ヒスタミン刺激で生じるCa2+ oscillationを利用して比較検討した。センサ上で培養したHelaへ静粛に薬液被曝するためには微小還流装置を作製し、培地表層波面の照り返しによる計測ノイズを無くした。また生体内発現を高効率とするためvectorを組換えて比較検討した。この結果、ChR2とO-GECO1によりマウス大脳皮質の神経細胞において光刺激と蛍光計測がセンサで実施可能と実証された。
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今後の研究の推進方策 |
患者が躰の各部位の動きを想起した時に、左右脳の連動を考慮した上で運動野とされている脳領野全体で、個々人で異なる神経活動に応じて随意制御できる補綴装具があれば理想的である。しかし補綴装具は身体を模しているが動作機構は生身と異なるため、装具に準じて制御信号の変換を行いつつも装具制御に患者は長期の学習を強いられる。仮に理想的なシステムを試作してもいきなりヒトに適用できない。また、特定筋肉と運動出力系の個々の神経細胞の活動は1対1対応ではない上、神経回路は環境に応じ様々に情報付与されるとともに可塑的に組み変わる事が知られる。このため得られた活動情報をそのまま装具の出力情報とするのは好ましく無い。 脳活動を元に補綴装具を制御するには、まず運動発露過程の左右運動野全体の差次的活動を細胞単位で分析する必要がある。このため本研究では新たにツールを開発し、移動装具と併用するシステムを構築した。そして運動野が脳溝に隠れてなく露出しているマウスに適用して実証する。マウスは指示通りに運動を想起しないので、個別動作で個別移動がもたらされる装具とした。これにより特定の運動に依存した特定の神経活動を見出しやすくなる。 移動装具の操縦学習前の生来的運動時の、左右運動野の運動前指令を下しているとされる短期には普遍的な神経活動をピックアップして装具を稼働すれば、マウスは思考するだけで行きたい場所に移動できると考えられる。つまり短期間で操縦できると想定される。これが実際にマウスが移動装具の操縦会得に要する期間より有意に短期ならば、学習を要さず新規道具使用が可能となることを意味する。ピックアップした細胞を誤り、その活動依存的に操縦する事を学習してしまう可能性があるが、その場合にはやはり時間を要するので区別できる。以上の方法論により、運動意思の実証と学習不要なBMIの基礎試験が出来るものと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度において16円に相当する用途事案が発生しなかったため、次年度において実験用消耗品等の購入に際して充当して使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
実験動物の購入、また、飼育・繁殖のために必要な消耗品、器具、エサや床敷きを購入するために使用する。アデノ随伴ウイルスベクター組み換えとウイルス溶液の精製のために必要な分子生物学実験用試薬を購入する。また、培養神経細胞を遺伝子操作するために必要な培養用試薬、遺伝子導入用試薬を購入する。光学計測装置や動物行動試験用の装置の試作、運用のために必要な制御機器、計測機器、電子部品を購入する。さらに脳の組織学的解析を行うために必要な抗体、試薬を購入する。
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