研究課題/領域番号 |
15K21628
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平沢 達矢 国立研究開発法人理化学研究所, 倉谷形態進化研究室, 研究員 (60585793)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脊椎動物進化 / 進化発生学 / 古生物学 / 化石 / 筋骨格系 / 腱 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、胚発生における腱の発生に関わるscleraxis (Scx) 遺伝子の発現パターンの解析を進めた。本年度は、アホロートル胚、マウス胚に加え、ニワトリ胚についても発現領域の経時的変化を観察した。ニワトリ胚においては、ステージ23に前肢芽の間葉の大部分に連続したScx発現が見られ、その後ステージ26までに前肢骨格の関節付近に発現領域が収束することが分かった。マウス胚と比較すると、初期の発現パターンに違いが見られ、マウス胚の方がScx発現領域がより近位部に局在している。また、予定腱領域に収束していく過程では、ニワトリ胚、マウス胚、アホロートル胚で共通して、手根部にScx発現細胞が特に多く、一方、肩帯部付近ではScxシグナルは弱かった。このことは、進化において肩帯部の筋付着部位がしばしば変化することと関連している可能性がある。 前年度にあった問題として、これまで有尾両生類においては筋前駆細胞の移動に関するデータが不足していた。そのため、胚発生において移動性筋前駆細胞に特異的に発現するLbx1遺伝子をアホロートルにおいて新たに単離し、これをマーカー遺伝子としてアホロートルにおける筋前駆細胞の移動を解析、腱の発生過程との比較を進めた。結果、Scxの発現が前肢芽に生じた(ステージ45)後で、筋前駆細胞が前肢芽に侵入する(ステージ46/47)ことが分かった。 以上、これまでのデータから考えると、前肢芽において、腱前駆細胞(Scx発現)は、最初、種特異的な分布をとるが、その後、四肢動物に共通する腱の配置に収束するようである。この配置パターンを決めるのは前肢芽内部の細胞間相互作用であると予想されるが、本研究で明らかにした発生プロセスを手がかりにそれを明らかにしていくことができると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、博物館における化石標本の調査も計画しているが、研究を進める中でまず発生学研究に集中する戦略をとるようにしたため、化石に関するデータはまだ文献からの抽出だけにとどまっている。当初の計画より発生学研究に時間がとられてしまったことについては、本年度に入り予期せず研究協力者が異動してしまい実験を共同して進めることができなくなってしまったことの影響も部分的にはある。
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今後の研究の推進方策 |
現在、四肢筋の発生と進化について、腱の発生にも注目して概説した総説論文を準備中であり、近いうちに国際誌に投稿予定である。 また、古生物学的アプローチとして、特に重要な化石種の標本を調査し、四肢筋の付着部位の進化的変遷について新たなデータを集める。 さらに、Scx発現パターンの詳細な解析を進め、腱の発生プロセスが筋の付着部位の進化上の安定性に与えてきた影響について探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究の遅れにともない、一部の研究が計画より遅れてしまっている。一方で着実に研究は進展しており、これを続けることで目標を達成できる見込みである。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究計画のうち、博物館における化石標本の調査が完了しておらず、これを実施するための旅費を支出する。この調査にあたっては、研究上特に重要な標本に絞り、効率よくデータを集められるように工夫する。 また、発生学研究をさらに進展させるため、分子生物学実験試薬(in situハイブリダイゼーション、免疫染色等)や実験用動物を購入するために消耗品費も支出する。
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