本研究における最大の成果としては、確率的な制御関係を考慮して遺伝子発現データから制御因子を網羅的に予測する手法であるwPGSA(weighted Parametric Gene Set Analysis)法を開発したことである(Kawakami et al. Nucleic Acids Research 2016)。wPGSA法による遺伝子発現制御因子予測は、アトピー性皮膚炎に限らず、多くの生命現象・疾患において、今まで知られていなかった制御因子の関与を明らかにしており、代表者が共同研究を行っているものだけで20以上の実験グループで利用されている。平成28年度は、wPGSA法を適用することで、ヒト正常皮膚角化細胞(NHEK細胞)を、皮膚炎誘導低分子化合物(MC903、イミキモド、polyI:C)で処理したときの遺伝子発現変動データから制御因子を網羅的に予測した。また、実際の皮膚炎発症・治癒過程の遺伝子制御メカニズムに迫るために皮膚バリア因子であるフィラグリンを欠損したマウスモデルを用いて、時系列遺伝子発現変動RNA-seq解析を行った。フィラグリン欠損マウスモデルは皮膚バリアの脆弱性を示し、感想環境下において発達段階で一時的に皮膚炎症状を示すが、成長とともに症状が軽快する特徴を持つ。得られたmRNAおよびmiRNA発現変動データを、wPGSA法によって解析することで、皮膚炎症状の発症と軽快に関連する制御因子が複数予測された(論文準備中)。今後、ヒト正常皮膚角化細胞で予測された制御因子と併せて、皮膚炎との関連を実験的に検証していく予定である。
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