研究課題/領域番号 |
15K21647
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
野本 順子 国立研究開発法人国立がん研究センター, 中央病院, 研究員 (30601322)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血液腫瘍学 / TNFAIP3/A20 / NF-κBシグナル経路 / BCRシグナル経路阻害剤 / ABC-DLBCL |
研究実績の概要 |
BCRシグナル経路阻害剤であるイブルチニブは、BCRシグナル経路因子であるブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を阻害しB細胞リンパ腫に有効性が認められているが、BTKより下流に位置する遺伝子に異常があるABCタイプびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)では治療効果がみられないことがわかってきた。このことは、より下流のNF-κBシグナル経路に関連した遺伝子に変異を有する場合にはイブルチニブが有効でない可能性が示唆される。申請者らはこれまでに、B細胞リンパ腫においてNF-κB の抑制因子であるTNFAIP3/A20遺伝子(以下 A20)の異常が高頻度に起こっていることを明らかにしてきた。 本研究では、ABC-DLBCLにおいてA20を含むNF-κBシグナル経路に関連する遺伝子変異がイブルチニブの有効性に与える影響を解明することを目的として、次世代シーケンス(NGS)解析を行い疾患特異的な遺伝子変異を調べた。NGSは、A20, BTK, MYD88, CARD11を含めたBCRシグナル経路下流の遺伝子とB細胞リンパ腫に関連する遺伝子から64遺伝子を選択し、これらの全エクソンについてターゲットシーケンスを行った。NGS解析では変異解析とコピー数変異解析を行い、ABC-DLBCLの疾患特異的な候補遺伝子を抽出した。また、A20と連関して起こる遺伝子異常を抽出した。 今後は、A20や候補遺伝子がイブルチニブの有効性に影響を及ぼすかをin vitroでの薬剤感受性試験で確認する。本研究によりABC-DLBCLの治療効果の向上と、あらたな病型診断・治療選択・予後予測といった個別化診断の基盤づくりに繋がると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BCRシグナル経路下流因子およびB細胞リンパ腫に関連した64遺伝子の全エクソンをターゲットとしたNGSパネルを設計・作製した。パネルの評価および検体DNAの品質評価を行い、NGS解析が可能なABC-DLBCL患者68症例を対象にIon Torrent Protonシステム(Thermo Fisher Scientific)を用いたターゲットシーケンスを行った。1ラン当りの総リード数は約106Mで、1検体当りのリード数は平均4.2Mだった。 データ解析において、腫瘍部と非腫瘍部の差を一対一で求めることが望ましいが、全患者で非腫瘍部を収集することが困難であったため、収集できた30症例のデータを非腫瘍部コントロールとして使用した。解析にはBiomedical Genomics Workbench(CLC bio)およびIonReporter(Thermo Fisher Scientific)を使用し、各患者腫瘍部対非腫瘍部コントロール群で変異解析およびコピー数多型解析を行った。変異解析では腫瘍部のcoverageが200以上の領域で且つ点変異では10%以上、挿入/欠失については15%以上の頻度がある異常を対象とし、腫瘍部と非腫瘍部コントロール群の頻度の差から疾患特異的な遺伝子異常を抽出した。遺伝子異常およびコピー数異常を合わせ、既報のMYD88やCARD11以外にも高頻度に見られる遺伝子変異が見つかった。またA20と連関する変異遺伝子を抽出することができた。
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今後の研究の推進方策 |
NGSデータ解析により抽出したABC-DLBCLに特異的な異常を持つ遺伝子やA20の遺伝子変異がイルブチニブの有効性に及ぼす影響を検討するため、細胞株を用いたin vitro での発現解析を行う。A20 を含む候補遺伝子に変異を持つ発現ベクターを作製し、各候補遺伝子単独あるいは候補遺伝子同士を組み合わせて導入した変異細胞株を作製する。また、Tet on/offのような発現誘導システムあるいはsiRNAにより候補遺伝子を欠損した細胞株の作製も試みる。 作製したコンストラクトの細胞株へイブルチニブの暴露を行い、細胞増殖能に及ぼす影響をMTTアッセイ法および定量PCR法により評価する。薬剤感受性の評価からA20と候補遺伝子の単独および組み合わせによるイブルチニブの有効性への影響を確認する。 A20や候補遺伝子がABC-DLBCLの治療選択に有用なバイオマーカーとなり得る場合は、これらの遺伝子異常の検査・診断法の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
薬剤感受性試験を行うためのシステムが整っておらず、必要な消耗品の購入が遅れているため。
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次年度使用額の使用計画 |
多くの経費は、薬剤感受性試験に必要な、細胞株、コンストラクト作製用試薬、評価薬剤、細胞増殖能検出試薬および解析に必要なソフトウェアの費用に用いる。 研究成果をしかるべき学会、学術誌に発表するための諸経費を計上する。
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