研究課題/領域番号 |
15K21650
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 泉美 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (20726971)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 医療情報データベース / 精神科系薬剤 / がん |
研究実績の概要 |
本研究は全国規模の医療情報データベースを用いて,乳がん患者の実診療下での精神疾患の罹患状況の解明と,それらが再発や死亡に及ぼす影響,さらに患者の診療に係る医療経済について評価することである。 これまでに,乳がん患者の精神疾患を他の主要ながん(胃,大腸,子宮,前立腺,肺,肝臓,膵臓)と比較することで,他がんとの違いを明確にした。本研究では,2009年から2014年に新たに8大がん(乳房,胃,大腸,子宮,前立腺,肺,肝臓,膵臓)のいずれかの診断を受けた患者,かつ過去6か月以内に精神疾患の診断がなかった患者14661人を対象に,診断後13ヶ月間の新規の精神科系薬剤の処方実態を保険者のレセプトデータから成るJMDC claims databaseを解析して調査した。 全対象患者の約半数の45%が精神科系薬剤を処方されており,最も多かった薬剤はベンゾジアゼピン系の薬剤であった。精神科系薬剤はがん診断後の一か月以内の処方割合が高く,処方割合が最も大きかったがん種は肺がんで,最少は前立腺がんであった。乳がんの処方割合は全体の平均の割合と同様であった。また処方に大きな影響を及ぼす因子は化学療法,外科療法などで,女性や併存疾患のある患者も処方される傾向にあった。またがん診療拠点病院のがん患者は一般病院のがん患者と比較して精神科系薬剤が処方されない傾向にあった。 本研究の結果は,2016年の国際薬剤疫学会で発表しており,その後,さらなる追加解析や結果の解釈など議論を重ねて論文化し,Psycho-oncology誌に採択された(Sato, et al. Prevalence and initial prescription of psychotropics in patients with common cancers in Japan, based on a nationwide health insurance claims database)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
乳がん患者の精神疾患の実態解明のため,他の主要ながん(胃,大腸,子宮,前立腺,肺,肝臓,膵臓)と比較することで,これらのがん種の中での乳がんの位置づけを明確にさせた。その拡張のため,データハンドリングや解釈に時間を要した。さらに,成果として学会発表後の論文採択まで時間を要した。本解析の結果により,基礎的な疫学情報が把握できたが,これらの結果を次の段階の再発や死亡,さらに経済的影響の評価に反映して応用する研究を実施するための準備が整わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次の段階として乳がん患者の経済評価のための準備も進めていたが,これまでの本研究の実施により,他の主要ながんとの比較が有用であること,さらに大幅に計画が遅れているため,今年度中に基礎的な疫学調査から次の段階への成果を出すため,これまでの解析データやデータベースを応用できる,精神科系薬剤の処方が再発や死亡等に及ぼす影響を明らかにする。これらの結果は後の経済評価にも必要になると考えられる。再発や死亡までは長期間の観察期間が必要であることから解析に必要な症例数が確保できず評価できない可能性がある。また,精神科系薬剤の処方により再発・死亡以外の有害事象(何らかの副作用の発生等)が発生する可能性がある。そのため,精神科系薬剤の影響を網羅的に評価するために,観察期間が比較的短期間でも特定が可能な有害事象の発生も評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗が大幅に遅れており,基礎的な疫学調査までしか解明できていなかったため,これらの基礎解析を応用して次のステップまでは進めるため,研究の実施を1年延長した。本1年間で次のステップの精神科系薬剤処方の再発・死亡を含めた有害事象を明らかにするため,その研究活動に研究費を使わせて頂く。今年度はデータ解析準備,解析,結果のまとめと解釈およびその議論,論文化が中心となる。 経費は,データ解析,データ保存,研究打ち合わせ,学会発表や情報収集での学会参加,論文作成(英文校正),国際誌投稿,消耗品などの諸経費として使用させて頂く予定である。
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