様々な技能や知識を新しく学習、獲得することは脳の重要な役割の一つであり、そのため脳には、技能や知識を獲得すべく変化する働き、すなわち「神経可塑性」が備わっている。そして、学習に伴い、組織学的手法による細胞レベルでの変化やMRIによる脳構造変化が生じることが明らかにされているが、脳マクロ構造と細胞レベルでの変化を同時に評価した報告はほとんどなく、脳マクロ構造変化の生物学的基盤は不明である。本研究では、ラットを対象に、オペラントレバー引き運動課題を学習させ、MRIを用いることで学習により可塑的変化が生じている領域を明らかにし、それら領域において組織学手法を用いることで、脳構造変化の生物学的背景を明らかにする。本研究ではまず、げっ歯類用オペラントレバー引き学習パラダイムを用いて、音刺激とレバー引きの連合学習によりどの領域に体積変化が生じるかを特定した。20匹の雄性ロングエバンスラットを対象に実験を行った。Kimuraらが開発したげっ歯類用オペラントレバー引き学習装置を用いて、音刺激とレバー引きの連合学習を3日間訓練した(3hours/day)。その日の最大の音刺激に対するレバー引き率(Maximum correct response rate: MCRR)を学習の程度を示す指標とした。また3日間の学習前後のMRIを撮像し、テンプレートへの標準化等の前処理を行った後、学習に伴い脳体積変化が生じている部位を特定した。3日間の訓練により、すべてのラットは最大OCRRが85%以上を示しており音刺激に対するレバー引き運動学習が成立したと考えられる。また3日間の学習により小脳において有意な体積変化が確認された。当該領域での、学習に伴い変化する細胞を特定するため、蛍光染色による定量評価を行うための基盤整備を行った。今後コントロール群と学習群においてどのような違いがあるかを検討する必要がある。
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