研究代表者らは先行研究において、摂取する餌に含まれるω3とω6という二種類の多価不飽和脂肪酸の量比(3:6値)が条件性恐怖記憶の強さを修飾する因子であることを明らかにした。本研究では、その作用メカニズムを神経回路レベルで理解することを目的として、特に恐怖神経回路を構成する特定の脳部位間のシナプス伝達に対する3:6値の影響について検討を行なった。 上記目的のため、オプトジェネティクスと脳スライスパッチクランプ法を組み合わせて利用した。すなわち、聴覚性恐怖条件づけにおいて手がかり刺激(音)を処理する聴覚野にチャネルロドプシン2(ChR2)-YFPを組み込んだAAVベクターを投与、聴覚野から手がかり刺激の情報を受けとる(直接投射を受ける)扁桃体外側核の神経細胞からパッチクランプ記録を行ない、青色光照射により誘発される興奮性シナプス伝達を記録した。 高3:6値餌、低3:6値餌(対照餌)をそれぞれ与えて飼育したマウスで、上記シナプス伝達に対するカンナビノイドCB1受容体アゴニスト、同アンタゴニストの作用を比較した結果、高3:6値餌摂取マウスではCB1アゴニストによるシナプス伝達抑制が亢進していた。さらに同シナプス伝達の長期増強について検討した結果、高3:6値餌摂取マウスでは低3:6値餌摂取マウスに比べて長期増強の程度がCB1受容体依存的に減弱されていることが明らかとなった。 扁桃体における興奮性シナプス伝達の長期増強は恐怖記憶の形成・維持に強く関与すると考えられていることから、上記の結果は、高3:6値餌摂取による恐怖記憶の減弱のメカニズムとして、カンナビノイドCB1受容体を介した恐怖神経回路内シナプス伝達の長期可塑性の変化が関与している可能性が示唆された。(本研究の成果は、Frontiers in Behavioral Neuroscience誌に発表した。)
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