石油、天然ガス等の燃料の持つエネルギーの内、動力や発電に活用されるのは30%程度であり、残りの70%以上は排熱として捨てられている。近年、新たなエネルギー源として、排熱を利用した熱電発電が注目されている。熱電材料の熱を電気に変換する能力を示す評価指標はゼーベック係数と呼ばれる。簡便に実験的な評価が可能なことから、熱電対回路を用いて、白金に対する相対値として計測されてきた。しかしながら、熱電材料の評価では、試料単体のゼーベック係数(絶対ゼーベック係数)を求める必要がある。そこで、申請者らは、交流信号を用いたゼーベック係数の絶対測定手法を新たに考案した。この手法は、従来法と異なり、熱伝導率、熱損失などの正確な評価が困難な熱物性データが不要で、電気測定から絶対ゼーベック係数を導出可能である。本研究では、実験装置を製作し、原理実証実験を行う。研究計画に従い、初年度は、クライオスタットを試作した。ゼーベック係数の導出に必要なトムソン熱を正確に評価するため、断熱制御方式を導入した試験セルを試作した。次に、超伝導体を用いた絶対ゼーベック係数の測定を実施した。ケルビンの関係式に基づき、絶対ゼーベック係数を決定するためには、第1項の超伝導転移温度T0以下での絶対ゼーベック係数を決定する必要がある。従来の金属系の超伝導材料に代わり、工業用材料としては最高の超伝導転移温度を示すビスマス系銅酸化物を用い、初めて100 K以上での絶対ゼーベック係数の評価に成功した。これにより、液体窒素温度での絶対ゼーベック係数の測定が可能となった。最終年度は、以上の技術を完成させ、白金の絶対ゼーベック係数を評価した。その結果、白金のトムソン熱の計測に成功し、熱伝導率や熱損失の評価を行わずに絶対ゼーベック係数を導出することに成功した。
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