近年、神経細胞(ニューロン)における特定領域のDNAメチル化やヒストン翻訳後修飾などのエピゲノムの異常と精神疾患との関連が報告されているが、直接的な証明は行われていない。本研究では、ジンクフィンガータンパク質(ZF)を用いた独自のエピゲノム編集技術を確立し、それを用いてエピゲノム異常を惹起させ、精神疾患発症の分子機構を解析すること、さらにヒト神経幹細胞におけるエピジェネティクス修飾の生理的機能を解明することを目的としている。 本研究課題において、神経幹細胞で高発現しているSOX2遺伝子のプロモーター領域を標的としたZFを設計し、そのZFと新規にメチル基をシトシン残基に付加するDNAメチル化酵素3a(DNMT)の活性部位を融合させたSOX2-ZF-DNMTを作成した。ZFとDNMTを繋ぐリンカーの長さについても検討するため、長短2種類作成した。これらのSOX2-ZF-DNMTの標的配列へのメチル化活性をメチル化感受性制限酵素を用いた解析とバイサルファイト法により評価したところ、標的領域でのメチル化の亢進を確認することができた。さらに、SOX2-ZF-DNMTをトランスフェクションしたヒト神経幹細胞におけるSOX2の発現の低下を確認することができた。この時、リンカーの長さの違いにより活性が異なることが明らかになった。このことは、リンカーの長さが最適化されたSOX2-ZF-DMNTが特定配列を認識し、DNAのメチル化を亢進することで標的遺伝子の発現抑制が可能であることを示している。また、DNMTとの相互作用や、エピゲノム編集の材料としても期待されているヒストン翻訳後修飾関連因子LSD1に着目した解析も行い、LSD1のヒストン脱メチル化活性がヒト神経幹細胞のニューロン分化に必須であることも合わせて明らかにすることができた。
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