本研究では、2次元的にひずみを可視化できる応力発光センサについて、微小ひずみに対してカメラ等で検出できる感度を有する新規材料の開発を目指した。平成28年度では、微小ひずみに対する応答性の発現因子について検討した。本研究開発で開発した応力発光材料の微小ひずみに対する感度は、従来材料と比べて、材料欠陥中にトラップされたキャリアが外部からの力学的刺激より早期に開放されるためと考えている。そこでこの仮説について検討するために、応力発光塗膜センサの励起後の待機時間依存性について検討したところ、待機時間の増加とともに微小ひずみに対する感度が減少した。待機時間の増加は、キャリアの熱的開放時間の増加を意味する。すなわち、待機時間が短い場合は、浅い欠陥にトラップされたキャリアが熱的に解放されずに力学的刺激によって解放されるため、微小ひずみに対する応答性が発現される。一方、待機時間が長い場合には、浅い欠陥にトラップされたキャリアが熱的に解放され、深い欠陥にトラップされたキャリアが力学的刺激によって解放されるため、微小ひずみに対する応答性が消失したものと考えられる。 また、開発した微小ひずみ応答材料が実構造材料の非破壊検査用センサ材料として実用化できるかを確認するために、複雑な配向性を有する炭素繊維複合材料(CFRP)の力学特性の解明を試みた。その結果、綾織CFRPプリプレグに引張荷重を負荷した際の応力発光パターンでは、引張荷重が小さい場合には単軸方向性のCFRPと同様に、ほとんど均一な発光パターンを示したが、引張荷重の増加に伴い、特定の繊維部分が強く発光することがわかった。これは、この特徴的な応力発光分布が異なる繊維方向によってもたらされたことを示唆しており、応力発光センサを用いた2次元的可視化により、特定方向の繊維の荷重分担を可視化できることが明らかになった。
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