研究実績の概要 |
中層大気 (成層圏・中間圏・下部熱圏) における大気大循環は、オゾン等大気微量成分の3次元分布や時間変化に大きく影響を与えるだけでなく、対流圏の気候にも影響を与えることが示唆されている。一方、中間圏から下部熱圏は、対流圏や成層圏に比べ観測領域や分解能が乏しく、未解明な現象が多い領域である。申請者は、アラスカPoker Flat (65N, 147W) MF radar長期観測データから、同地点における中間圏から下部熱圏の短周期重力波の運動エネルギーの半日周期成分が、2000年10-12月おいて半日潮汐波の位相に追随することを発見し、論文化した。今年度は上記観測点に加え、Tromso (70N, 19E) MF radar 長期観測データを解析し、2000年10-12月に見られた、位相追随現象がTromsoでも同期間において存在すること、一方、両地点の重力波運動エネルギーの半日周期成分の位相が180度ずれていることを発見した。その原因を探るため、気象再解析モデルデータを用いて、位相追随期間中の成層圏の高度場を調べた結果、Tromsoは極渦の中に位置していたのに対し、Poker Flatは極渦外に位置していたことがわかった。このことから、位相追随現象で捉えられた重力波は両地点で異なる性質を持つだけでなく、極渦の壁により分離されたままそれぞれの地点に伝播したことが示唆された。さらに、上記現象は複数年度で捉えられており、10年間のコンポジット解析を行った結果、冬季においては位相追随現象で捉えられた半日潮汐と重力波運動エネルギーの位相関係は頻繁に生じやすいことが新たにわかった。申請者はこれらの結果をまとめ論文化し、今年中に投稿・出版予定である。またPoker Flat MF radar観測データは日本で初めてデジタル識別子 (DOI) を付与し、公開している。最後に申請者が研究して用いた計算プログラムは大気圏分野の研究者の多くが利用している解析ツールでも利用できるよう、修正を行っている。
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