研究課題/領域番号 |
15K21686
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研究機関 | 国立研究開発法人 森林総合研究所 |
研究代表者 |
山下 尚之 国立研究開発法人 森林総合研究所, 立地環境研究領域, 主任研究員 (30537345)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 陸域生態系 / リスク評価マップ / 大気汚染 / 土壌酸性化 / 窒素飽和 / 東アジア |
研究実績の概要 |
東アジア(東南アジア含む)における硫黄・窒素酸化物の排出は増え続けているが、生態系に対するリスク評価の広域マップは90年代以降ほとんど更新されていない。本研究は、近年の高解像度化した空間情報を用いて大気汚染リスク評価指標の一つである臨界負荷量を再計算することにより、土壌・陸水における酸性化・硝酸イオン濃度上昇のリスクを東アジア全域でマッピングすることを目標としている。平成27年度はマッピングのための空間情報の収集とGIS解析を進め、まずは日本に範囲を絞ったリスク評価マップを作成した。このマップは、大気からの硫黄・窒素沈着が土壌の酸性化を生じさせうるレベルにまだ達していないことを示しており、日本では大気汚染による土壌酸性の影響が顕在化していないというこれまでの観測結果と合致していた。一方、このマップは、大気からの窒素沈着が日本海沿岸や近畿、中部、関東の一部で陸水中の硝酸イオン濃度を上昇させうるレベルに既に達していることも示していた。さらに、近年の沈着量分布の変化と増加を背景に、硝酸イオン濃度上昇のリスクのあるエリアが拡大しつつあることが示された。以上の結果は、日本では酸性化よりも硝酸イオン濃度上昇のリスクが高く、日本海沿岸等の高リスク地域では窒素流入量の低減が必要であることを示唆していた。次年度は解析範囲を拡大して東アジア全域を対象としたリスクマップの作成を進め、マップの検証と不確実性評価を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は当初の計画に沿って入力データの準備、GIS解析および臨界負荷量の計算を進め、日本の陸域生態系における硝酸イオン濃度上昇と酸性化のリスク評価マップを作成した。東アジアに先行して日本に限定した計算を実施することにより、計算に必要なパラメータ推定手法の検討や、日本での豊富な観測結果を活用した出力結果の検証、それによる課題の洗い出しを進めることができた。一方、東アジアスケールでのマッピングには至らなかったものの、これは広域でのパラメータ不足によるものであり、想定の範囲内である。現在、文献調査やパラメータ推定手法のさらなる検討による解決を目指しているところである。すでに必要な計算スクリプトはほぼ整備できたため、パラメータ推定が進み次第、東アジアスケールでのマッピングが可能な状況である。なお、日本を対象としたリスクマップについては大気汚染に関する著名な国際学会であるAcid Rain 2015において口頭発表を行い、特に欧米の手法をアジア地域に適用する際の問題点等について有意義な議論を行った。また、日本を対象としたリスクマップの成果の一部を学術論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は日本から東アジアへ解析の範囲を広げる。日本での計算は既に終了しているため、必要なパラメータとデータが揃い次第、比較的早い時期に東アジアスケールでの予備的マップを完成させる予定である。その後、臨界負荷量計算モデルにおける一部の推定パラメータを変化させたり、モデルに基岩での風化・脱窒プロセスを取り込んだりすることによる感度分析を実施する。複数条件下での計算を実施することにより、特に陸水における硝酸イオン濃度上昇の精度向上を目指す。この際、必要に応じて専門家に助言を求め、関連学会での情報収集等を行う予定である。最終的に、得られた複数条件下のリスクマップについて不確実性評価を実施し、文献による観測値を利用して出力値を検証することにより、東アジアの実態に沿った土壌・陸水のリスク評価マップを提案する。研究成果は学会で発表して学術論文としての投稿を行うとともに、大気汚染行政に係る各国の実務者が参加する東アジア酸性雨モニタリングネットワークの国際会合の場で研究成果を発表する予定である。また、誰にでも閲覧できる形でのWeb上でのマップ公開を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の途中で研究代表者に所属機関の異動があったが、異動先機関では当初入手予定であった高額のソフトウェアが既に導入されていたため、その購入を取りやめた。そのため、平成27年度の支出額が当初計画より減額となり、その分を次年度に繰り越した。一方、異動先機関ではあらたに計算環境を整備する必要があり、ソフトウェア購入予定であった予算の一部をGIS解析用のワークステーション購入に使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
解析を進めることでパラメータ推定や入力データに関する課題が生じており、各分野の専門家に相談する必要がある。さらに、一部の地域で新たな統計データを入手する必要がある。そのため、当初の計画に加えて出張旅費や物品費等が余計に必要になるが、これは前年度からの繰越分で賄う予定である。その他、成果発表・紹介のための出張旅費および論文投稿経費に用いる計画である。
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