研究課題
硫黄・窒素沈着による東・東南アジアへの大気汚染リスク評価は90年代以降ほとんど更新されていない。本研究は土壌酸性化と陸水富栄養化の臨界負荷量を計算し、近年の硫黄・窒素沈着の空間分布と比較することで、大気汚染リスクが高い国・地域を明らかにした。気象、土壌、地質の地理空間情報から塩基類の化学風化と塩基・窒素類の流出を、各国の植林地分布や植生分布の変化等から塩基・窒素類の持ち出しを、既往の観測データ等から塩基沈着の空間分布をそれぞれ推定し、臨界負荷量の空間分布を約20kmの空間解像度で計算した。また、大気化学輸送モデルを用いて2013年の硫黄・窒素沈着分布を推定し、1980年代以降の沈着分布と併せて大気汚染リスクの時空間変動を評価した。本研究のリスク評価によれば、東・東南アジアにおける近年の硫黄・窒素沈着量は土壌酸性化の深刻なリスクをもたらすほどでないが、陸水の富栄養化のリスクをもたらすのに十分なレベルであった。陸水の富栄養化のリスクは、熱帯多雨林、熱帯山地林の分布地域、日本等と比較して、中国南部や東北部、熱帯モンスーン等で相対的に高かった。東・東南アジアでは硫黄・窒素の沈着量に加え、土壌層からの流出、塩基沈着、植林等による塩基類・窒素持ち出しの地域間差が大きく、これらがリスクの空間変動要因となっていた。一方、熱帯における著しい土地利用変化に伴う塩基・窒素類の持ち出しは、本研究のリスク評価における不確実性要因の一つとなっていた。熱帯における大気汚染影響の実態とメカニズムには不明な部分も多く、さらなる研究の進展が必要である。
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Journal of Forest Research
巻: 21 ページ: 115-124
10.1007/s10310-016-0523-8
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2016/20160607-03.html