研究課題
近年、補助循環は循環器疾患のみならず呼吸器疾患まで適応を拡大し、全世界で約6万症例、本邦でも4千症例以上施行されており、今後も症例数の増加が予測されている。また、世界の糖尿病患者数は約4億人と言われており、本邦でも800万人(糖尿病予備軍の人口を合わせると2000万人)を超えるとされている。総人口に占める糖尿病患者の増加に加え、糖尿病患者は健常人に比べ、心疾患合併率が2~4倍高いことや、呼吸器合併症のリスクも高いということも重なり、糖尿病患者に対する補助循環施行数も増加している。このような背景のもと、今回、我々は、糖尿病患者において非糖尿病患者に比べ、炎症反応が強く活性化されるため、補助循環中および補助循環離脱後の臓器傷害並びに、その他の合併症の発生率が上昇するのではないか?という仮説を立てた。加えて、酸化ストレスを容易に受けやすいと言われている糖尿病患者に対して、過剰な高酸素管理がさらに炎症反応を助長しているのではないかという仮説も立てている。この仮説を証明するために、課題1. 糖尿病ラットにおいて補助循環中の炎症反応が増大していることを証明する。課題2.糖尿病ラットにおいて補助循環中の臓器傷害のメカニズムを解明する。課題3. 酸化ストレスが主要臓器に引き起こす傷害の評価。補助循環中の酸化ストレスと糖尿病の病態との関連性を解明する。という3つの課題を掲げて実験を行ってきた。昨年度は、主に課題2に取り組み、各群で主要臓器を体外循環後に摘出し、組織形態的評価のためにHematoxylin-Eosin (HE) 染色を行った。補助循環により腎臓(特に近位尿細管領域)にダメージを受けていることが分かった。さらに、糖尿病ラットにおいて傷害のレベルが高い傾向にあった。
2: おおむね順調に進展している
設定した課題に沿って当初の予定通り研究が進みデータを収集することができている。これまでに非糖尿病ラットと比較して糖尿病ラットにおいて、補助循環の炎症反応が高いこと、組織形態的に傷害を受けていることが分かってきている。学会や論文での対外的な発表に向けて準備を進めている。
最終年度は課題3. 酸化ストレスが主要臓器に引き起こす傷害の評価。補助循環中の酸化ストレスと糖尿病の病態との関連性を解明に取り組む。課題1、2で得られた結果を踏まえ、今年度の実験を遂行する。具体的には、各群の主要臓器(心臓・肺・肝臓・腎臓)で活性酸素の検出が可能な Dihydroethidium (DHE)染色を行い、補助循環中の活性酸素の発生、炎症反応、組織形態的傷害の関連性を明確にし補助循環中の臓器障害のメカニズムの解明したい。この成果から適切な補助循環管理方法を提案したいと考えている。
今年度は、これまでに購入していた薬剤や実験回路を使用することができたため、物品費(消耗品代)を節約することができた。また、組織染色については外注予定であったが、一部、自施設内で可能であったため、経費を削減することができた。以上の理由から次年度使用額が生じた。
次年度はさらに動物実験が進み、血液や臓器組織サンプルが揃うことから、検査費および物品費の支出増加が予想される。外注検査費は高額であるが、繰り越した研究費も含めて慎重かつ適切に使用していきたい。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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