研究実績の概要 |
抗体標識を伴わない“細胞ローリングカラム”を用いた細胞分離がiPS細胞の分化特性に与える影響を調査することを目的とする。iPS細胞から中胚葉前駆細胞を誘導したのち、2種類の方法(①細胞ローリングカラムと②フローサイトメーター)で分離したFlk1陽性/陰性細胞を心筋分化培養し、分離方法によって分化挙動が変わるか調べた。 本年度は、前年度明らかとしたカラム作製条件をもとに、Flk1陽性細胞分離手技の確立と分離精度の向上を目指した。Flk1陽性中胚葉前駆細胞の分化誘導と、カラムを用いたFlk1陽性細胞の分画処理の手技検討を行うことで、異なるFlk1陽性細胞率(27%~49%)の細胞分画の調製が可能となった。次にこの分画した細胞を心筋分化培養し、培養8日後の細胞増殖率と心筋分化マーカー(Gata4, Nkx2-5, 心筋トロポニン)の遺伝子発現量を評価した。同時にフローサイトメーターを用いてFlk1陽性/陰性細胞を回収し、同様の手順で心筋分化評価を行った。フローサイトメーターで分離すると、拍動関連遺伝子の一つである心筋トロポニンの発現量は、Flk1陽性群が陰性群の約2倍の発現量を示した。一方、カラム処理した細胞はいずれの分画においても心筋トロポニンの発現量が低かったため、カラム処理細胞は心筋分化が進んでいないことがわかった。興味深いことに、カラム処理群では、むしろFlk1陰性細胞が多い分画で心筋前駆細胞マーカーであるGata4, Nkx2-5の発現量が高かった。この現象は、フローサイトメーターで分離したFlk1陽性/陰性細胞では見られない現象であった。細胞増殖率はカラム群の方がフローサイトメーター群より高かった。 以上の結果より、細胞ローリングカラムとフローサイトメーターでは、分離後の細胞の分化・増殖特性が異なることが示された。
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