研究課題/領域番号 |
15K21698
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研究機関 | 大阪府立公衆衛生研究所 |
研究代表者 |
野村 千枝 大阪府立公衆衛生研究所, 衛生化学部, 主任研究員 (50393260)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オオシロカラカサタケ / 食中毒 / 種特異的プライマー / ユニバーサルプライマー / 調理 / 消化 / 電気泳動 / リアルタイムPCR |
研究実績の概要 |
本邦における2016年の有毒キノコによる食中毒は42件、患者数110名であり毎年数十件以上発生している。キノコによる食中毒は、症状別に消化器障害型、神経障害型および原形質毒性型の3タイプに大別され、時に重篤な症状を起こし死に至る場合もある。したがって、患者が喫食したキノコ種を迅速に同定することが、中毒患者の治療に有効である。食中毒の原因究明のために行われるキノコの肉眼的観察、顕微鏡観察による形態学的鑑別法は、高度な菌類学の専門知識を要する上、キノコが原形を留めていない食中毒検体(喫食残品や患者吐物)には適用が困難である。そこで、種の同定に有用とされるDNAバーコーディング法(シークエンサーを用いた塩基配列解析による種同定)を応用した種特異的プライマーの設計によるキノコのスクリーニング法について検討した。日本で食中毒事例のあるキノコのうち、5種類のキノコ(オオワライタケ、オオシロカラカサタケ、ニガクリタケ、スギヒラタケ、カキシメジ)について種特異的なプライマーを作製した。本法は調理および人工胃液による処理の影響を受けず、湿試料100 mgのキノコ(DNA 10 ng)をゲル電気泳動法またはマイクロチップ電気泳動法を用いて、約2時間半で検出可能であった。キノコによる食中毒疑いが発生したとき、本法によるスクリーニング検査と同時に、ITS1領域の塩基配列解析による確認検査を行う。塩基配列解析には約9時間以上要することから、本法と塩基配列解析を併用することにより、検査精度を担保するとともに、保健所や衛生研究所等において、より迅速な食中毒対応が可能になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本において食中毒事例のあるキノコは30種以上存在するが、現在, 有毒キノコの迅速鑑別法の報告は4種(ツキヨタケ、クサウラベニタケ、ドクササコ、カキシメジ)に留まる。また、食中毒検体に応用した例は少ない。そこで、有毒キノコの検出対象を拡大するために、種特異的なプライマーを開発し、保健所および地方衛生研究所において、食中毒検体に適用可能なスクリーニング法を開発した。食中毒現場の実態に合わせ、調理や消化による影響を検討した。また、検証現場の現状や迅速性を考え、PCR産物のゲル電気泳動法での識別を提案した。本法はITS1領域の塩基配列解析による確認検査と同時に使用することで検査精度を担保するとともに、より迅速な食中毒対応に寄与することを目的とした。有毒キノコによる食中毒は、その毒性発現の本体は有毒成分であるため、最終的には、キノコ種の同定だけではなく有毒成分の分析も必要となる。しかし、有毒成分の分析では、標準品がないものも多く、分析に時間を有する等の問題点もある。同様に塩基配列解析も時間がかかる。そこで、機器分析や塩基配列解析に加え、スクリーニング法(迅速な簡易鑑別法)として本法を併用することは有効であると考えられる。キノコ種の同定にはシークエンサーを用いて塩基配列解析を行い公共のDNAデータベースとの比較が重要であるが、現時点ではDNAデータベースの整備が十分ではない。そこで大阪市立自然史博物館及び国立科学博物館と協力して、全国の研究者(ハイアマチュアと呼ばれる研究者も含む)とともに標本登録を進め、データベースの充実を図る。また、標準品が存在するものについては、キノコの毒成分析法の改良を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今回設計した種特異的なプライマーを用いて、ゲル電気泳動によるスクリーニング検出法を確立した。次はMultiplexPCR法を用いて同時検出について検討する。すでにキアゲン社のQIAGEN社のMultiplex PCR Plus kitを用いて同時検出可能であることを確認した。さらなる迅速化を目的として、リアルタイムPCRを用いた検出系を構築する。リアルタイムPCRの機種はロシュ社のLightCycler96、酵素はタカラバイオ社のSYBR Premix Ex TaqIIを用いて検出可能であることを確認済みであるが、プライマーの選択性、特異性についてさらなる検討を必要とする。構築した検出系を用いて、食中毒検体の検出を行う。キノコ種の同定にはシークエンサーを用いて塩基配列解析を行い、DDBJ等の公共のDNAデータベースとの比較が重要であるが、現時点ではDNAデータベースの整備が十分ではない状況である。そこで大阪市立自然史博物館や国立科学博物館と協力して、全国の研究者(ハイアマチュアと呼ばれる研究者も含む)とともに標本登録を進め、データベースの充実を図る。また、キノコの毒成分析法の改良を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、大阪府内におけるキノコによる食中毒事件数が少なかったことからシークエンサーを使用して高価な試薬の使用する頻度が低かった。また、入手した食中毒検体を国立科学博物館や大阪市立自然史博物館への標本として登録するためのシステム構築、顕微鏡を用いた同定を行うための人脈構築及び技術の習得に重点を置いたため、DNA分析のための試薬等にかかる予算配分が当初の予定よりも低くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は種特異的なプライマーの種類をさらに増加させる等の検討を行い、食中毒対応可能な範囲を拡大する。またリアルタイムPCRを用いた分析法の構築、シークエンサーの使用のために助成金を使用する。さらに食中毒症状の本質であるキノコの毒成分分析法の改良のために助成金を使用する。
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