研究課題/領域番号 |
15K21703
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研究機関 | 熊本県産業技術センター(ものづくり室、材料・地域資源室、食品加工室) |
研究代表者 |
林 佳菜子 (齋田佳菜子) 熊本県産業技術センター(ものづくり室、材料・地域資源室、食品加工室), その他部局等, 研究主任 (60466315)
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研究期間 (年度) |
2017-02-07 – 2020-03-31
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キーワード | キトサン / コアシェル粒子 / オメガ3脂肪酸 |
研究実績の概要 |
本研究開発では,無毒で生体適合性が高いキトサンを用いて,高い相関が指摘されている歯周病及び循環器系疾患ための口腔ケアと,ω3脂肪酸による予防を同時に実現できるω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の開発を目的とする。 ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の調製は,イオン交換相分離法を基礎技術として実施した。イオン交換相分離法は,混合と透析というわずか2ステップの操作で構成されており,化成品を製造する際に通常使用するような界面活性剤・有機溶媒は必要とせず,高温での加熱工程も必要としないことから,環境への負荷が非常に少ない方法である。 ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子を調製する前段階として,脂肪酸と同様に長鎖の炭化水素鎖を持つドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いてキトサン/SDS粒子を調製したところ,容易に粒子の形成が確認された。次に,n-6系不飽和脂肪酸であるリノール酸を用いてリノール酸/キトサンコアシェル粒子の調製を試みたところ,粒子の安定性が低く,一定時間経過後に粒子が崩壊した。そこで,SDSと同様に硫酸基をもつ天然多糖であるカラギーナンを用いて,カラギーナン/脂肪酸混合液のキトサン溶液への滴下によるコアシェル粒子の調製を行った。しかし,やはり粒子としての安定性が低く,一定時間後に崩壊した。そのため,現在,コア粒子を調製した後,シェル部分のキトサンを被覆するという手法に切り替えて調製を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子を調製する前段階として,ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いて,キトサン/SDS粒子を調製した。SDSは脂肪酸と同様に長鎖の炭化水素鎖を持ち,その末端に硫酸基を有している。ミセル化したSDSをキトサン乳酸溶液に滴下することでSDSの硫酸基とキトサンのアミノ基に架橋が生じ,容易にキトサン/SDS粒子を調製することができたと考えられる。 次に,n-6系不飽和脂肪酸であるリノール酸を用いてリノール酸/キトサンコアシェル粒子の調製を試みた。ミセル化したリノール酸を直接キトサン溶液に滴下したところ,直径数μmの粒子が実体顕微鏡で確認された。しかし,その安定性は低く,一定時間経過後に粒子が崩壊した。そのため, 天然多糖であるカラギーナンを用いて,粒子の調製を行うこととした。カラギーナンは末端に硫酸基を持つことからキトサン乳酸溶液にカラギーナンを滴下すれば,キトサンのアミノ基との間で架橋が生じ,キトサン/カラギーナン粒子が調製できると考えられた。カラギーナン/脂肪酸混合液をキトサン乳酸溶液に滴下してコアシェル粒子の調製を試みたところ,一定時間が経過すると粒子が崩壊してしまい,安定性が低いことが確認された。そのため,コア粒子を調製した後シェル粒子を被覆するという手法に切り替え,現在粒子の調製を行っている。より強いゲルネットワークを形成させるために,塩化カルシウム水溶液や塩化カリウム水溶液への滴下を行ったところ時間が経過しても粒子の崩壊は見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1) ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の調製 調製したカラギーナン/脂肪酸コア粒子にキトサンを被覆する。カラギーナンは硫酸基を持つことからキトサン乳酸溶液にカラギーナンを滴下すれば、イオン交換が生じ、キトサン/カラギーナン粒子が調製できると考えられる 2) ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の安定性の評価 ω3脂肪酸は酸化しやすい性質を持つことから,温度・光・酸素存在化において酸化劣化を生じる。そのため,ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の温度・光・酸素からの安定性を調べるために,ω3脂肪酸の酸化度について測定する。酸化度の評価にはGC-MSを用いる。また,以前,申請者らが調製したキトサン微粒子は80 °Cにおいても溶解しない高い熱安定性を有していたことから,ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の耐熱性についても評価する。 3) ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の口腔ケア材としての評価 ω3脂肪酸/キトサンコアシェル粒子の原料であるキトサンは,2位のアミノ基が正荷電を持つ酸性条件下でのみ抗菌性をもつ。申請者らが開発したイオン交換相分離法によって調製したキトサン微粒子は中性条件下でも抗菌性を保持することが明らかとなっている。そこで,口腔ケア材として適した,中性条件下での歯周病菌に対する抗菌効果,蛍光顕微鏡を用いた生死の評価,バイオフィルム形成阻害効果についても評価する。また,粒子という形状からのバイオフィルム除去効果,口腔清掃効果,保湿効果についても評価する。
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