本研究では、イチジクコバチの種群を材料に、次世代シークエンサーを用いた解析により点突然変異をマーカーにしたゲノム規模の相関解析を行う。そして寄主植物の異なる種間・集団間の比較により、種ごとに特定の寄主植物の利用を可能にするゲノム領域を明らかにする。新たに解読するイヌビワコバチのゲノムや他種のゲノムを参照配列として、寄主であるイチジク属植物への適応に関わる遺伝子群の探索を行う。一連の解析結果により、イチジクコバチにおける寄主利用の遺伝的基盤を明らかにすることを目指す。 最終年度である本年度は、イヌビワコバチBlastophaga nipponica(日本集団32個体・台湾集団33個体)とその近縁種B. taiwanensis(台湾集団30個体)を材料に、ゲノム規模の情報を用いた比較を行った。その結果、両種の台湾集団間の遺伝的分化の程度は小さいことが明らかになった(FST=0.026)。さらに、この傾向とは異なり、種間で特に大きな遺伝的分化を示す領域が10領域見出された。これらの領域のうち、寄主植物の違いに対応した分化の傾向を示す領域(3領域)について、新規に配列を取得したイヌビワコバチのドラフトゲノムを元に周辺に位置する遺伝子の特定を試みた。ゲノム上の位置が推定できた領域は全て遺伝子間領域に位置していた。当初の予想とは異なり、周辺に位置する遺伝子に共通した機能を見いだすことはできなかった。
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