研究課題/領域番号 |
15K21765
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
川井 茂樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (30716395)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 表面化学 / 分子 / 光技術 / 化学反応 / 分子間力 / 光励起 / 高分解能撮像 |
研究実績の概要 |
2016年4月に現職への着任に伴い、前任地のスイスバーゼル大学から物質・材料研究機構へ研究拠点を移した。本年度は、本研究課題(帰国発展研究)の援助を得て、これまで行っていた研究を更に発展するために必要な研究設備を整えることに注力した。まず、2016年6月に極低温超高真空原子間力顕微鏡システムを日本に移設した。本システムは、大型で複雑なものであり、空輸するために解体を行う必要があった。その理由で、当初の予定より立ち上げに時間を要した。また、前任地で共有していた装置(金属蒸着機器や液体ヘリウム容器や液体ヘリウム移送菅や液体窒素容器)や装置開発の一部である除振台の設計製作などを行った。また、立ち上げる過程で真空装置の不具合が発生したため、質量分析装置を用いて原因を解析して修復した。更に、検出系が故障していたため修理した。本研究課題では、光により分子を励起して、反応および状態の変化を移設した超高分解能の原子間力顕微鏡を用いて検出することを目的としている。本年度では、紫外光による光反応機構を本システムに導入した。 これらの移設および装置開発には時間がかかるため、並行して国際共同研究(スイス・フィンランド・スペイン)を推進して、分子を用いた表面化学の実験を行った。その結果、一酸化炭素で探針を終端することで、水素結合の力を直接測定できることに成功した。また、原子間力顕微鏡を用いることで分子内の水素原子を直接観察できることを示した。この観察技術は、ポリマーやDNAなどの三次元の分子に応用できる可能性がある。更に、ハロゲン結合で凝集した空孔を有する分子膜を用いることでその分子の並び方によって表面エネルギー準位を制御できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置の移設を行うのに際して解体と組み立てを行う必要が発生したため、当初予定していた期間より立ち上げに時間を要した。その理由で当初予定していた実験が行えなかった点は、“やや遅れている”といえる。一方で、装置立ち上げ期間を利用して国際共同研究を推進した。その結果、 (1) 水素結合力の直接測定 (2) 多段階の熱化学反応を表面で実現 (3) 空孔を有する分子膜を用いた表面エネルギー準位の超精密制御 など本研究の目的を達成するのに非常に重要な知見を得ることに成功しており、この部分は“当初の計画以上の進展”である。総合して、“おおむね順調に進展している”と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き国際共同研究を推進して、単分子の状態を原子間力顕微鏡で検出する技術を開発する。その状態や形態を制御するために、光を探針と分子の界面に導入する機構を開発する。本年度は、その光導入機構を開発して製作する。また、反応機構が既知の標準的な分子を用いて予備実験を行う。極低温の実験では単分子レベルの測定を超高感度行うことが可能であるが、温度の低下とともに走査範囲が小さくなってしまうため、広域の試料を観察することができない。一方、最近になり室温でも単分子の内部構造を観察したという報告がある。本研究テーマを室温でも実現できれば実デバイスへの更なる応用と展開を期待できるため、室温の原子間力顕微鏡を新規に導入することにした。
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