研究課題
2016年6月に物質・材料研究機構へ移設した極低温超高真空原子間力顕微鏡(AFM)システムの立ち上げを行った。初年度では、移設に伴い発生した必要な物品の設計製作に時間を費やしていたため、実測を基とした装置立ち上げを行うことができなかった。本年度では、走査型トンネル顕微鏡モードを主として実測を行い、不具合や改善点を洗い出した。若干の電源ノイズがまだ存在しているが、Z軸方向のノイズが0.5pm以下になり本プロジェクトを推進するのに必要な環境が整った。実際にホウ素をドープしたグラフェンナノリボンの内部構造を観察して、その電子状態を測定することに成功した。また、赤外光を導入する機構を設計し製作した。一方で、前年度に測定した、ハロゲン結合を用いたふたつの異なる分子膜による表面電子準位の精密制御の結果を詳細に解析し報告した。また、スイスのバーゼル大学とフィンランドのアート大学と国際共同研究を行い、単分子内の芳香属性と反芳香族性について結合長を測定することにより議論できることを示した。さらに、二つの異種元素を導入したグラフェンナノリボンを生成することに成功した。この材料を用いて、原子間力顕微鏡は炭素薄膜内に埋め込んだ異種元素の同定が行えることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
前年度に、実験装置の移設を行うのに際して解体と組み立てに関連して発生した進捗の遅延が本年度の進捗にそのまま影響を与え当初予定していた研究内容が行えなかった。一方で、分子の内部骨格を観察できるところまで装置を立ち上げることができたたため、“やや遅れている”といえる。一方で、装置立ち上げ期間を利用して国際共同研究を推進した。その結果、(1) ホウ素と窒素を導入したグラフェンナノリボンの実現(2) 原子市間力顕微鏡を用いた原子種の違いの検出(3) 結合長による単分子内の反芳香族性の検出など本研究の目的を達成するのに非常に重要な知見を得ることに成功しており、この部分は“当初の計画以上の進展”である。総合して、“おおむね順調に進展している”と考えられる。
開発した光導入機構を用いて分子の状態を制御することを行う。これまでに、液体ヘリウムと液体窒素のシャッターの性能が低いため、光を導入すると安定して実験ができないことが判明している。早急にシャッターの設計と試作を行うことで改良し、液体ヘリウム温度を維持したままで光を導入できるようにする。更に、単分子を低温の試料の上に直接蒸着するのに必要な機構を開発する。これにより、本研究内容を行うための装置が完成する予定である。一方で、研究を加速させるために博士研究員の雇用を予定している。また国内の共同研究者からの修士・博士課程の学生の派遣を積極的に受け入れ、不足しているマンパワーを補うことに努める。さらに、これまで培った海外の共同研究者と連携を強め、国際共同研究をさらに推進する。
最終年度に研究を加速させるために、博士研究員を雇用するための予算を確保するために前年度の予算を繰り越した。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件)
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