研究実績の概要 |
遺伝性疾患ファンコニ貧血の原因蛋白と家族性乳癌卵巣癌原因蛋白BRCA1, BRCA2は共同してDNA損傷修復を制御するFanconi anemia(FA)-BRCA pathwayを形成する。我々はこのpathwayを制御する新因子として脱ユビキチン化酵素USP28を同定し、またFANCIのリン酸化・脱リン酸化がFA-BRCA pathwayの制御の鍵を握る現象であることを発見した。本研究はこれらの因子の解析を目的とし、FA-BRCA pathwayと腫瘍の抗がん剤感受性耐性との関わりの解明も目的としている。平成30年度にはFanconi anemia(FA)-BRCA pathwayの因子であるBRCA1, BRCA2に変異のある腫瘍がプラチナ製剤やPARP阻害剤に耐性になるメカニズムに関する我々の知見及び他のグループからの知見をまとめ、和文の総説論文(谷口俊恭. BRCA1・BRCA2 変異腫瘍におけるプラチナ製剤・PARP阻害剤耐性メカニズム. 放射線生物研究, Vol.53, No.3, pp178-210, 2018)を執筆投稿し出版した。USP28の機能解析を進めるためにCRISPR-CAS9システムを用いてUSP28のknockoutcellの作成に成功し、複数のクローンを樹立した。その結果、USP28 knockout細胞を長期培養し続けるとUSP28 knockdown細胞の表現型とは一致しない表現型に変化していくことがわかった。例えばUSP28 knockdown細胞も樹立直後のUSP28 knockout 細胞もRPA foci 形成が促進しているが、培養を続けるとUSP28knockout細胞のRPA foci形成促進の表現型が弱まる。これはFA-BRCA pathwayにおけるUSP28の役割を理解するために重要な情報である。次年度はこれらのデータをまとめた原著論文を投稿するとともに、さらにUSP28の解析を進める予定である。また、このプロジェクトから派生して、悪性腫瘍の一種である滑膜肉腫におけるFA-BRCA pathwayの機能異常がPARP阻害剤感受性に関与しているという仮説をたて、検証を始めた。こちらの解析も進める予定である。
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