現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分解能向上と構造測定と側鎖の信号の帰属―5次元(5D)固体NMR法を現実的に行えるパルス系列を開発し、世界で初めて5D固体NMR実験をモデルタンパク質であるGBl(分子量~6.5kDa)に対して行った。従来4次元(4D)固体NMRであっても数目かかっていたが、5D実験を1日程度で測定可能であることを示した。4D固体NMRはわずか1時間程度で測定可能で、連鎖帰属のための様々な4D実験が短い時間で完了できる。成果をまとめた論文は投稿済みで、現在論文の改訂中。 アミロイドや膜タンパク質に対する分解能向上―アミロイドや膜タンパク等はほぼ単一の二次構造から成るため、信号が同じ位置に重なり連鎖帰属が困難になる。Aβ42フィブリルでは6つのValの信号が重なり、連鎖帰属が不可能だったが、Val-reverseラベルしたAβ42に対し HIGHLIGHT 3D CaNH法でVa1の次の残基を観測できることを示している。この結果を元に上記で述べた4D連鎖帰属法と組み合わせ、Valを迂回しての連鎖帰属が可能となることを示し、ほとんど主鎖の^<13>C, ^<15>N, ^1H信号を帰属した。現在中性のpHではAβ42フィブリルの構造は本質的に1種類しか見つかっていないが、信号機属よりシフトが大きく異なる新規構造の存在を示す結果が中性下で作成された試料で得られた。これらの成果をまとめて投稿中である。また提案する実験のためにSPAと呼ばれるアミロイドの中間体も作成している(JBC 2020)。さらに、バクテリア由来の膜タンパクであるaquaporin-G(分子量23万)に対する4D固体NMR測定も進めている。これに関しては試料の最適化による分解能の向上を図っている。 アミロイドと薬材Complexへの応用―抗体等を含む非ラベルの試料がアミロイドの結合パートナーの時には、パートナー側の^1Hの信号とアミロイドの信号を分離することは難しい。この場合にはアミロイドを^<13>C、^<15>N均一ラベルして、^<13>Cと^<15>Nに結合している^1Hの信号を全てクエンチする。抗体由来の^1Hからアミロイドの^<13>Cに信号を移動して観測を行う。観測されたアミロイドの^<13>Cの信号から抗体のエピトープ等に対応するアミロイド部位が同定できる。このコンセプトを実証するための実験をアミロイドの凝集を妨げる効果がある小分子薬材であるカテキンEGCGとAβ42フィブリルのcomplexに対して行っている。また、EGCGの結合により複数存在するアミロイドの構造のpopulationがシフトする興味深い現象を確認している。このトピックに関しても論文化を目指している。
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