生物は,数少ない経験から未知の多数の事象に適用可能な汎化された振る舞いを構成することができる.これは,高等生物だけではなく,小動物や昆虫などの下等生物にもみられる極めて優れた性質であり,従来の工学における「多数の事象から少数の抽象化された事象を抜き出す」という統計学的な枠組みでは説明が不可能な対照的な現象である. この生物の仕組みに注目し,本研究では,「汎化機能を実現しているものは,実世界に最初から存在している普遍的性質である」との仮説をたて,この「普遍的性質を発見し汎化を実現するためのプロセス」と,「学習により状態・行動空間を分化させ,振る舞いの精度を向上させてゆくプロセス」の2つのプロセスからなる新しい学習の枠組みについて検討した. 30年度は,パイプや枝といった柱状物の昇降を目標のタスクとして,昨年度にイギリス ブリストル大学との共同研究で開発したロボットをさらに改良し,8脚を有するソフトロボットを開発した.開発したロボットは,身体の柔軟性を利用して,柱状物の形状の違いを汎化するように設計されており,非常に簡単な歩容パターンを繰り返すだけで,様々な形状の未知柱状物の昇降が可能である.また,このロボットに強化学習を適用し,ある柱状物の昇降を学習することで,追加の学習を行うことなく,異なる形状の柱状物の昇降が可能であることを確認した. これらの結果から,実世界の普遍的性質である力学的な特性を利用して汎化作用を実現することが可能であり,実際のロボットの制御にも応用可能であることが確かめられた.
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