研究課題
ツボカビは、最も祖先的な菌類で、寄生性や分解性の種が1000種以上報告されている。湖沼や海洋に多様なツボカビが存在しうる事が明らかになりつつあるが、形態的特徴が乏しいうえに、DNAの登録データ不足のため、最新の技術を用いたとしても環境中から抽出したDNAシークエンス情報だけではツボカビの種名や機能を同定することは不可能である。本国際共同研究では、ヨーロッパの湖沼および海洋に出現するツボカビの多様性と機能の解明を目指した。2016年度は、ドイツの湖沼(Lake Stechlin)を主なフィールドとし、ツボカビの形態・生活史情報と遺伝子情報の一致したデータベースを構築した。ツボカビの1胞子体からDNAを抽出解析する方法(Single Spore PCR法)と最先端のDNA解析技術であるPacBio、Oxford Nanoporeを組み合わせることで、リボソームDNAの全領域をカバーするシークエンスを精度高く取得することが可能となった。また単離培養に成功し維持しているツボカビの代表的な種について、分子系統樹解析と電子顕微鏡観察に基づく形態分類を併用し、これまで網解明であったツボカビの分類群に新属を提唱した(Seto et al. 2017, Van den Wyngaert et al. 2017)。ツボカビが食物網構造や物質循環にどのように影響するのかを明らかにするために野外にて操作実験を行った。ツボカビの遊走子はミジンコなど動物プランクトンの重要な餌となるが、さらに宿主や動物プランクトンの種類によってはツボカビの胞子体も食べられる可能性が浮かび上がってきた。
2: おおむね順調に進展している
予定していた計画の中で、DNA配列の取得に難航したが、用いるポリメラーゼなどを変更することで問題を解決することができた。
これまでに得られたツボカビのDNA配列情報を元に、次世代シークエンサーによるメタバーコーディング解析と定量PCR法を適用し、湖沼や海洋におけるツボカビを含めた菌類群集の動態や、特定の寄生菌類の分布や季節変動について明らかにする。また、動物プランクトンの消化管内容物の解析も行うことで、動物プランクトンの餌に締めるツボカビの重要性を定量するとともに、菌類の群集構造に及ぼす動物プランクトンの影響を明らかにする。2017年度の7月から9月までの3ヶ月間はオランダに滞在し、各ツボカビの元素組成(CNP)、脂肪酸組成を調べ、植物から菌類、菌類から動物への栄養転換効率を求める。ツボカビの元素組成を元に、炭素、窒素、リンの循環パターンを推定し、ツボカビの多様性を考慮に入れた水圏の物質循環モデルを提示する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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