研究課題/領域番号 |
15KK0027
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
川村 賢二 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (90431478)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 氷床コア / 希ガス / メタン / 南極 / グリーンランド / 古気候・古環境 / 年代決定 |
研究実績の概要 |
本研究では、下記の4項目を目的としている。1)氷床コア中の窒素や希ガスの濃度と同位体について、大気が氷床へ取り込まれるプロセスの理解を進める。2)連続融解分析手法における気液分離とキャリブレーションの手法を確立する。3)過去約6万年においてWAIS Divideコアとドームふじコア間の年代対比を行う。4)南極氷床の深層掘削に関して、古い氷が存在する条件や探査方法、年代推定などについて検討する。 1)に関しては国内での実験環境を整え(希ガスを混合したリファレンスガスの作成、希ガス精製手法確立、空気抽出と希ガス精製ライン作成など)、南極H128地点で採取したフィルン空気の一部を分析した。 2)に関して、グリーンランドにおける国際掘削に参加し、連続融解分析に適した試料の取得や分析に関する議論や準備を行った。国内においては、南極氷床コアのメタン濃度の連続分析や、グリーンランド氷床コアの既存データの解析、氷床コア融解時のガスの溶解に対する較正手法関する多数の実験を実施した。その結果、較正用の超純水の脱気が極めて重要であるという従来にない知見を得た。連続融解法との比較のため、氷床コアの個別高精度分析も実施した(研究協力者:国立極地研究所・学振PD・大藪幾美)。3)については、新規に取得された第2期ドームふじコアのDEPデータと既存データを比較し、内陸のコアでは信号の出現や強度のコア間の相違が大きいことを見出した。また、第1期コアとWAIS Divideコアとの年代対比をEDCコアを通じて行った。4)については、氷床レーダーによりドームふじ周辺の基盤地形を得るためのデータを取得した。また、国内外の機関とウェブ会合を複数開催し、解析方針や次回の詳細探査のための検討を行ったとともに、フランスLGGEに滞在して東南極氷床の探査状況やRapid Access Drillについて議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
氷床コアの希ガス分析は歴史が極めて浅いため、各ラボラトリ間での実験設備の差異が大きいことが考えられ、それぞれのラボにおける分析手法の確立がまず課題となる。現在までに国内での希ガス分析のシステムと手法を確立し、それを用いてフィルンにおけるガス分別プロセスを明らかにするためのフィルン空気の分析を実施したことにより、表面付近の対流混合が弱いと考えられた沿岸付近のH128地点において予想外に対流混合が発達していることを見いだすなど、重要な科学的知見が得られている。 メタン濃度の連続融解分析のキャリブレーション手法の確立に向けては、昨年度に明らかとなった較正用超純水の脱気に関しての実験が大きく進展した。脱気モジュールの種類と運用方法を多数の実験の後に確立し、較正後の濃度値が個別分析の結果に大きく近づいたことから、今後のドームふじ氷床コアの本格分析でその総合性能を調査していける段階に達したと判断している。 ドームふじコアと他のコアとの年代対比について、ドームふじ氷床コアと欧州が掘削したドームCコアとの対比は、主に第1期ドームふじ氷床コアの電気伝導度データを用いて22万年前まで遡って行われている。その結果を利用し、WAIS Divideコアとの対比を進めた。WAIS Divideコアで比較に用いる硫黄濃度データは未出版のため、その使用権を持つ外国人共同研究者が、出版済みのドームふじコアとドームCコアの等年代深度情報を用いてWAIS Divideコアとの対比を試み、良好な結果を得ている。 ドームふじ周辺で古い氷が存在する地域について、総測線長約3000kmに及ぶ氷床レーダー探査を実施し、基盤の深さなどに関して良質なデータを得たことも、大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、これまでに確立してきたメタン濃度の連続融解分析の較正手法をドームふじ氷床コアの分析に適用し、実験数を稼いで較正手法の安定性や問題点を洗い出していく。そのためには、同コアの個別詳細分析の結果が比較のために不可欠であることから、その分析も進める。フィルンを通じた大気成分の変容と封じ込め過程のプロセスについては、H128地点のフィルン空気の分析を進めるとともに、南極内陸のドームふじ近傍(100km圏内)およびグリーンランドEGRIPにおいて新たにフィルン空気の採取を実施する。WAIS Divideコアとの年代対比については、連続融解分析(ICP-MS)によるドームふじコアの硫黄濃度の分析の可能性を検討している。その結果によって、連続融解データまたは連続個別試料分析により、最終氷期最寒期から最終退氷期にかけての期間において対比に用いることのできる火山シグナルの年代間隔が開いている箇所に新たな対比点を見いだすことを試みる。
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