研究課題
●2018年8月30日からINRA/AgroParisTechに渡航し、Chenu教授らとの共同研究を開始した。当初の研究目的の1つであったINRA長期実験圃場のアーカイブ土壌を用いたミクロ団粒動態の解明は、Chenu教授との議論から培養実験に変更した。日本の黒ボク土壌に比べて仏国シルト質農地土壌の団粒の物理的安定性が顕著に低く、我々の物理分画手法での比較は困難との判断による。より普遍的なミクロ団粒形成・崩壊の解明のため、モデル微生物とモデル鉱物を用いた培養実験を計画し、そのパイロット実験および本実験を進めた。●当初の2つめの目的である微細団粒中炭素の可視化手法の確立については、有効な情報交換および技術習得を行うことができた。Chenu教授、Peth教授(独カッセル大学)らのグループは、透過型電子顕微鏡分析で有機物を見分ける際に使われるオスミウム(Os)による不飽和二重結合炭素の染色法を、初めて土壌団粒のX線コンピュータートモグラフィー(CT)に応用した。今回、この手法の留意点、またCT画像解析での問題点と解決法(ノイズ除去、差分画像の処理法等)について有益な情報を得る事ができ、また定量的評価に向けた取り組みについて議論を深めた。●3つめの目的である団粒形成・崩壊と土壌炭素動態を繋ぐ包括的な理論の構築に向けて、Chenu教授とフランス国立科学研究所(CNRS)のNunan博士と土壌構造と土壌有機物と微生物の関係について5回以上の打合せを行った。過去の研究と今後の進むべき方向についての彼らとの議論を基に、土壌微生物ハビタットの視点から土壌団粒構造を捉え直すコンセプト論文の準備を進めた。またここでの議論はAsano, Wagai et al (受理)の論文および10月に独ミュンヘンで行われたミクロ団粒の構造と機能に関するワークショップでの招待講演での発表に活かされた。
2: おおむね順調に進展している
当初の3つの目的のうちの1つは、上述の通り実験アプローチの変更を行ったため、スムーズに進んだとは言えないものの新しい実験は順調に進んでおり、それ以外の2つの目的については研究が順調に進展した。
●INRA-Grignonで開始した鉱物・バクテリア系の培養実験を7月までに完了させ、形成されてミクロ団粒のキャラクタリゼーションを行う。その結果を踏まえ、必要に応じて日本での再実験および鉱物タイプを変えた実験を行い、バクテリアによるミクロ団粒形成条件とその特徴付けを行う。それらの知見を基に、土壌および堆積物中での団粒形成や有機物安定化のメカニズムについての考察をまとめる。●上述のコンセプト論文の準備をフランスの両研究者と進める。自分が精通する分野と異なるテーマの文献レビューの必要もあるため、本年度中の発表は難しいと思われるが、できるだけ早期に投稿することを目指す。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Soil Systems
巻: 2(2) ページ: -
doi.org/10.3390/soilsystems2020032