今年度は、主に昨年度にパリ第一大学および附属図書館で共同研究者Kambouchner氏の指導のもと行った研究の成果をまとめること、そして、それをもとに新たな研究主題を開始すること、以上の二点を主眼とした。 前者に関しては、まず、共同研究者のデカルトに関する研究書Descartes n'a pas ditの日本語訳を完成させた。本書は、本研究課題である道徳論的人間学と政治論的人間論に関連する論点がいくつか論じられており(とりわけ本書後半に含められている情念論、動物論、判断論、徳論、政治論)、そのすべてがデカルト人間学を構成するわけではないにしても、その主要なものであることにはかわりなく、さらに、セネカを源泉とする《新ストア主義》を構成する主要な論点とも重なる。したがって「デカルトによる非批判的受容を背景にした……」という本研究課題の前半部の理解を深める一助となった。 ついで、「ピエール・シャロン人間学に関する哲学史的解明」という本研究課題の後半部について、シャロン晩年の主著『知恵について』が、古代ストア主義を受容・修正・活用しつつもその議論をエピクロス主義的なものに変節させ、キリスト教的考察の観点からも精彩を失い、最終的には自由思想を用意した、との見通しを得た。実際に本書はシャロン死後にヴァチカンより禁書処分を受けた。 キリスト教の教義に通じていたシャロンの古代ストア主義の活用が危険視されたのはなぜか、この問いを理解するには、《キリスト教的ストア主義》の生成の現場、すなわちリプシウスとデュ・ヴェールにいったん遡って、そこからこの思潮の変化を辿り直す必要に気づかれた。そこで、新たな研究主題を構想し、科研費基盤研究Bに申請(申請自体は昨年度に行った)、国際共同研究の成果に依拠した新たな研究を開始した(その実績はもはや本研究課題の枠組みを超えるのでここには記さない)。
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