研究課題/領域番号 |
15KK0038
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 弓 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員 (50466819)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 中国史 / オーラルヒストリー / コミュニティ / 記憶 / 中国農村研究 / 信仰と近代 / 雨乞い / 記憶と歴史 |
研究実績の概要 |
本年度は8月に第二子を出産したため、産前産後の身体状況の中で子育てをしつつ、可能な限りの研究活動及び渡航のための準備を行った。 第一に、『世界』(2015年8月号)に執筆した「日中戦争における対日協力者の記憶」論文を大幅に加筆訂正し、英訳を行った。翻訳を年度内に終えるため、一部の訳と訳出部分の校閲を翻訳会社に依頼した。同英語論文は渡英後の資料として用い、また将来的に国際的な学会誌に投稿する予定である。 第二に、論文「社会主義中国における歴史実践―山西省農村部でのオーラルヒストリー調査を通して」を執筆した。年度内に執筆を終えられなかったため現在も執筆中である。同論文は記憶研究のために行ったオーラルヒストリーのインタビューを、農民たちの「歴史実践」として読み直したものであり、執筆をとおして、中国山西省の農民が紡ぐミクロの口述史は、多様な学問的可能性を有しているのであり、今後新しい歴史学的な視点を吸収することで、その国際的で学際的な広がりを明確なものにしていけることを再確認した。 第三に、国際共同研究のための渡英準備を行った。2018年3月15日より英国オックスフォード大学オリエンタル学科へ1年間の訪問研究を開始したが、事前に英語圏の歴史研究を吸収するための土台になるような資料及び書籍を読み込んだ。その中で羽田正編著『グローバルヒストリーと東アジア史』は、英語、中国語、ドイツ語、そして日本語圏を包括する最前線の研究内容をまとめており、英語圏の歴史学的手法の最前線を大まかに知ることができた。また、近年邦訳されたヘイドン・ホワイト『実用的な過去』が論じるPractical Past(実用的な過去)は、物語が有する歴史性に着目しており、口頭で伝えられる物語やお喋りが如何に記憶やコミュニティを作り出してきたかを問う本研究に新たな論理的視角をもたらすものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は第二子出産のため、研究の内容については、予定通り進めることができなかった。ただし、渡英のためのビザの取得や渡航先との連絡など、研究環境を整えるための様々な手続きは着実に進めてきた。それらは業績としては現れないが、国際的な研究を遂行する上で不可欠な作業であり、それによって予定通り年度内の渡英が可能となり、共同研究をスタートさせることができた。このため、共同研究の準備段階としては、「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
オックスフォード大学チャイナセンターで開催されるシンポジウムや研究会に積極的に参加し、英語圏での歴史学やオーラルヒストリーの現状を把握する。その上で中国土着の歴史実践が、ヨーロッパの歴史学に如何なるインパクトを持ちうるのかを考え、共同研究者に相互に有益な研究の方向性を提案していく。 ロンドン大学内のOral History Societyが開催するシンポジウムに積極的に参加し、オーラルヒストリーの手法を刷新していく。 ボドルリアン図書館のコレクションの中から『趙氏孤児』に関連する宣教師資料を収集し、中国からヨーロッパへ物語が如何に受け取られたか、受容や改編の仕方から、物語を通した東西交流の在り方を考える。 これらの基礎の上にHenrietta Harrison教授と積極的にコンタクトを取りつつ研究を進める。
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