研究課題/領域番号 |
15KK0041
|
研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
伊藤 智ゆき 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (20361735)
|
研究期間 (年度) |
2016 – 2018
|
キーワード | 韓国朝鮮語 / 慶尚道方言 / 延辺朝鮮語 / アクセント / 類推変化 / 歴史言語学 |
研究実績の概要 |
今年度は、韓国朝鮮語方言のうち、特に慶尚道方言と標準語ソウル方言について、データ収集と分析を進めた。両方言ともに、1・2音節語固有語名詞(単純語)、漢字語名詞を対象とし、前者については話者7名分のデータに基づき、アクセントの分布と分節音、音節量、使用頻度、語の複雑性との相関性及び中期朝鮮語との対応について検討した。それに際し、現代慶尚道方言の前段階と推定される慶尚道方言祖語のアクセント分布についても、中期朝鮮語データを元に再建し、中期朝鮮語→慶尚道方言祖語、慶尚道方言祖語→慶尚道方言への変化の様相について、最適性理論に基づく分析を進めた。また、同結果を基に、対数線形モデルによる分析を行い、現代慶尚道方言のアクセント分布がどの程度予測されるか、検討行った。それと併せ、アクセント付与に際しては固有語・漢字語の区別が前提にあると考え、標準語データを辞書より収集し、1・2音節語固有語名詞と漢字語名詞が音韻論的条件によりどの程度弁別が可能であるか、ロジスティック回帰モデルによる分析を行った。その結果、両者は様々な音韻論的条件(各分節音の異なり頻度、共起制限、母音調和、語全体の分節音数等)により、一定程度の区別が可能であると考えられるが、固有語名詞に関しては、かなりの確率で漢字語名詞と混同されうること、また音節構造が実在する漢字形態素と一致しない場合には、固有語として特定される確率が高いことなどを見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に関連する韓国朝鮮語慶尚道方言と標準語ソウル方言の資料(1・2音節語固有語名詞、漢字語名詞)は既に収集済みであり、分析のための基本データは既に構築している。また、基本データの様々な音韻論的情報を統計学的に分析するため、データを自動的に処理できるプログラムを作成済みである。更に、慶尚道方言(アクセントの歴史的発展)と標準語ソウル方言(固有語・漢字語の弁別)について、まだ初期段階ではあるものの統計モデルによる分析を行っており、それによる一定程度の成果を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、可能であれば3音節語固有語名詞・漢字語名詞についても対象に含め、更に延辺朝鮮語についても同様の分析を進めたいと考えている。また、固有語・漢字語の弁別に関し、更なる分析を進め、より詳細に、どのような音韻論的特徴により、両者が区別されるのか検討するとともに、各語の使用頻度や近接語への距離(neighbor count)との相関性などについても分析を進める予定である。それと併せ、韓国朝鮮語母語話者を対象に、固有語・漢字語の弁別に関する実験を行う計画である。その結果を踏まえ、慶尚道方言・延辺朝鮮語のアクセント付与における語彙種の影響について分析を進める。
|