身体や環境に有害な材料・素材の使用を控えた「ノントキシック版画技法」は、芸術的表現の面でも伝統版画技法の代替に留まらない「次世代型版画技法」としての発展性がある。 本研究では、国際共同研究チームを編成した上で、ノントキシック版画技法の研究や普及に関わる活動について国際的な調査を行い、各国の現状と課題を明らかにし、この技法の展開に求められる普及システムの構築と指導法の開発を行い一定の成果を収めた。 (1)国際的な普及・導入支援システムに関する実態調査:2017年度(12ヶ月)、ベルギーのゲント美術アカデミーに所属し、マルニックス・エヴェラールト教授の研究グループとの共同研究に取り組んだ。(2)ノントキシック技法の表現に関する調査と資料収集:「腐食銅版画技法」に関する資料を中心に調査・収集した。これまでのノントキシック版画技法で主流だったアクリル系防食剤に代わり、植物由来の油脂などの新素材の研究に広がりが見られる。(3)指導者向け技法導入支援法の研究開発:有機溶剤を使用しないノントキシックの腐食銅版画技法をステップ・バイ・ステップで学べるよう開発したワークショップは、銅版画の基幹をなす3つの技法(ハードグランド、ソフトグランド、アクアチント)を用いた作品の制作手順を習得できる内容とした。講義・実習を通し、伝統的技法の代替にとどまらない表現の多様さを体験できるよう工夫した。 最終年度には、「ノントキシック版画国際シンポジウム2019金沢」( 2019年3月8日- 3日間)を開催し、11カ国42名の参加を得た。研究期間全体をとおし、大学・民間を問わず国内外の版画家・研究者・指導者の人的ネットワークが構築されたことで、別個の研究成果が統合され、知見やノウハウを共有できるシステムのモデルが完成した。
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