本年度の研究実績として、大きく以下の二点が挙げられる。 一点目は、前年度に実施した中国江南での現地調査(歴史的には東シナ海域の交流拠点の一つであった浙江省の舟山群島にある蝦峙島・六横島(舟山市普陀区)の村落、舟山市より南の海岸部にある台州市三門県の村落、内陸部にある麗水市青田県の村落、浙江省の南に位置する福建省の福州市倉山区の村落)で得られたフィールドデータの中でも、福州市倉山区の村落で参与観察することができた女性中心の祭祀についてのデータに注目し、それをジェンダー人類学的視座から取り上げて、共同研究者の阮雲星教授(浙江大学)と第31回日中社会学会のシンポジウム(東京農工大学、6月)で発表したことである。 二点目は、上記発表での反省点を踏まえ、また舟山群島の蝦峙島でも参与観察できた女性中心の祭祀や信仰実践をも念頭に、改めて福州市倉山区で参与観察した女性中心の祭祀について記述・分析をし、今後の課題について、東アジア人類学研究会第6回大会(国立民族学博物館、12月)で発表したことである。ここでは、中国で現地調査を実施している研究者たちから具体的な助言をいただくことができた。それらの助言から、東シナ海域の基層文化に生活文化の観点からアプローチするという本研究の方法や課題を発展させる上で必要だと考えられる文献研究や現地調査について様々なヒントを得ることができた。このことを新たな研究計画書の作成に活かした結果、2020年度からの科研費の研究(課題名「東シナ海域の文化伝統の再考:女性主体の共同祭祀に関する日韓中境界領域の事例比較」)へと結び付けることができた。
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