研究課題/領域番号 |
15KK0052
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西山 雄二 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (30466817)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2019
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キーワード | カタストロフィ / リスク / 災厄 |
研究実績の概要 |
今年度は、人文学(主に思想と表象の学問分野)の文献や理論の検討、実地調査にもとづいて、これまで人間はいかにカタストロフィを表象し思考し解釈してきたのかを問い、カタストロフィと人間の関係を根本的に考察した。学術発表では、二つのゴジラ映画(1954年の『ゴジラ』と2016年の『シン・ゴジラ』を比較して、核エネルギーの表象をめぐって考察をおこなった。ゴジラは人類が倒すべき敵であると同時に、原子力兵器の犠牲者でもあるがゆえに、日本独特の怪獣表現となっている。第五福竜丸事故や原子力の平和利用など、核エネルギーに関する日本の重要な転換期にゴジラ映画は誕生し、戦争の記憶と予感、原子力の軍事利用への拒絶と平和利用への期待といった社会的・歴史的背景を映し出している。だが、『シン・ゴジラ』では福島原子力事故を踏まえて、冷温停止されて宙づりになったゴジラといかに折り合いをつけるべきかが問われる。この成果は4月にレンヌ第二大学、5月のフランス国立東洋言語文化大学で、9月にはローマ大学にてフランス語と英語にて発表された。海外の研究機関・研究者と学際的に連携しつつ、カタストロフィをめぐる人文学的研究のネットワーク形成を進めることができた。フランスでは福島の原子力事故に対する研究者および一般市民の関心は高く、当該の研究が他国と比べて進んでいる。渡航先をパリにしたことで、より多くの研究者らと実りある議論を交わすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年8月までパリに研究滞在し、フランス国立東洋言語文化大学を拠点として研究活動を展開し、おおむね上手く進展した。国立東洋言語文化大学の日本学センターはヨーロッパでも随一の日本学拠点であり、同センターの研究者の好意的な協力もあり、日仏の共同研究の促進には最適の環境であった。国際会議としては、5月のカナダでのDerrida Today, 7月のスロヴァキアでの「ヒューマニズムの未来」、ローマ大学で「核(エネルギー)1945年から現在までの科学的・哲学的問い」に参加し発表した。海外の研究機関・研究者と学際的に連携しつつ、カタストロフィをめぐる人文学的研究のネットワーク形成を進めることができた。帰国後は、東京にて12月にカリム・シャハディーブを招聘して「枠組みの蘇生――現代日本映画におけるゾンビの形象」を、1月にヨアン・モロ「人新世におけるカタストロフィのドラマトゥルギー」を企画・開催した。前者は、ゾンビ映画の歴史と表現から終末論的ヴィジョンの可能性を考察するもので、後者はカタストロフィの語り方や効果を人新世の視座から再考するものである。論文については、学術サイトTERRAINにて、Hantologie de Fukushimaを発表した。東北被災地での幽霊体験の証言から、生死の閾を表象する文学の可能性を考察した論考で、いとうせいこう『想像ラジオ』における死者と生者の共存のヴィジョンを、柳田国男『先祖の話』や夢幻能の事例を参照しつつ、ジャック・デリダの憑在論とからめて研究をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は東京を拠点として、人文学におけるカタストロフィの表象と思考に関する共同研究を進める。昨年参加したローマでの国際会議の成果が論集として刊行予定で、英語起稿論文の執筆を進める。日本在住の人類学者ヨアン・モロとは引き続き共同研究を進め、夏には合同でワークショップを開催予定である。フランスには6月、3月に研究滞在予定で、国立東洋言語文化大学の日本学センターとの研究交流を継続させる。
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