昨年度共催した二つの国際学会の討議のとりまとめ、および複数の研究発表・ワークショップへの参加により、日欧のキリシタン文献研究者の互恵的ネットワークの構築、海外への発信、そして国際的な学術会議の運営の経験を積む、という本国際共同研究の目的を大いに達成することができた。研究代表者の在外活動のみならず、共同研究者の来日と連続講義も実現でき、今後に裨益するより強固な国際共同研究体制が構築できた。 具体的成果としては、まず、スペインの日本研究者、日本のスペイン研究者がお互いの研究対象を拡張することによって独自に発展してきた「日西交流史」、また日本史研究者が在外欧文史料に分析対象を拡張することによって独自の分野を築いてきた「日本キリシタン史-日欧交渉史」の蓄積が、近世初期のグローバル・ルネサンス研究において有する重要性が再確認されたことである。 次に、日本の学界においては、ヨーロッパ人による日本情報についての刊本は手稿文(=原文書)に比して副次的な扱いがなされがちであったといえようが、ヨーロッパのインテレクチュアル・ヒストリー研究においてこれらの資料はエスノグラフィー研究、ヒストリオグラフィー研究という分野で活発な議論を惹起しており、こういった視点に一層注目するべきことなどが指摘された。 さらに、殊に新奇な東アジアの文化に接したヨーロッパ人宣教師が、既存の神学的枠組みをいかに適応させるかをめぐる議論が、当時のヨーロッパにおける「蓋然説」をめぐる議論に密接に接合していることが確認された。ここから、日本におけるキリスト教宣教が近世ヨーロッパの思想的変遷に与えた影響が査定できると思われ、今後の課題として残された。 2020年に入ってからの国際状況の急変により、取りまとめとしての編著は編著者による校正済みの段階で中断しているが、印刷所の再開を待つのみとなっている。
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