研究課題/領域番号 |
15KK0063
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
武田 和久 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (30631626)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | イエズス会士 / グアラニ先住民 / 布教区 / 住民名簿 / カシカスゴ |
研究実績の概要 |
本年度は本研究の今後の深化のための基礎固めにあたる活動を重視した。具体的には本研究遂行の要となる住民名簿のデータ化に力を入れた。研究代表者がこれまで国内外で培ってきた人脈を頼りに、データ入力の協力者を国内外で確保し、関係者は30名以上にのぼる。彼らと密に連絡を取り合い、1657-1801年というおよそ1世紀半を網羅し、原本・複写あわせて260近い住民名簿のデータ化を包括的に進めている。 2016年8月から9月にかけてアルゼンチン、ブエノスアイレスに滞在し、本研究の国際共同研究者である国立サン・マルティン大学准教授のギジェルモ・ウィルデ博士と頻繁に会い、研究打ち合わせを集中的に行った。その際、研究代表者は特に1657年に作成された複数の住民名簿の分析結果を踏まえてウィルデ博士と議論を重ねた。同年住民名簿の幾つかにはdescuido(怠慢、しくじり)と形容された先住民が記載され、それらはいずれも名簿の最後に登場するという共通点があった。その一方で、布教区内で政治や軍事関係の要職に就く先住民の氏名とその家族は名簿の最初の箇所で言及されるという共通の特徴が認められた。このことは、名簿が単なる氏名の羅列ではなく、個々の先住民の社会的な威信を示すことの表われとみなせる。 また2016年11月にイタリア、ブルーノ・ケスラー財団が運営するイタリア・ドイツ歴史研究所の専属研究員フェルナンダ・アルフィエーリ博士が開催した国際研究集会に出席し、布教区内にイエズス会士が設けた信心会という宗教組織のメンバーの役割と住民名簿との関係について議論を重ねた。 2017年2月から3月にかけてはドイツ、ハーゲン通信大学歴史研究所の助教ファビアン・フィッシュナー博士のもとを訪れ、イエズス会布教区内部で住民名簿がどのように管理・利用されていたのか、史料論の観点からの研究の可能性について議論を重ねた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況をこのように自己評価したのは、研究代表者は住民名簿のデータ化を継続的に進めつつ、名簿に時おり出てくる短い特徴的な記述、例えば前述の「怠惰、しくじり」といった一言に注目し、布教区内でのこれの社会文化的な意味の解明に取り組むことができたからである。 またウィルデ博士指導のもとで博士論文を準備中のブラジル出身のセサル・ペレイラ氏とも2016年8-9月のブエノスアイレスでの滞在時に面識を得ることができ、同氏が取り組んでいる布教区内で反抗的な先住民につけられた別称「異教徒」(infiel)の意味と、その実態解明に必要な議論も深めることができたためである。 さらにウィルデ博士は2017年3月から4月にかけて早稲田大学高等研究所訪問研究者として東京に一ヶ月滞在し、この間にも研究代表者は同博士と議論を深められたことも、このように自己評価したことの理由である。 こうした状況の一方で、もう一人の国際共同研究者、スペインのホセ・ヘスス・エルナンデス・パロモ博士とは、日本では入手困難な諸文献の入手に協力を仰ぐなど、電子メールを介してのやり取りを継続している。 本年度の本研究の具体的な成果としては、アルゼンチン、ブエノスアイレス大学エミリオ・ラヴィニャーニ研究所が発行する学術雑誌『スルアンディーノ・モノグラフィコ』(Surandino Monografico)に査読審査を経て掲載されたスペイン語論文である(2016年12月発行)。一次審査の結果は「条件つき採択」であり、最終的には二名の匿名の査読者からの審査結果を踏まえて加筆・修正を経たうえで採択されたが、この過程で本研究の成果を加味できたことが採択に結実したと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通りウィルデ博士が2017年3-4月に東京に滞在した際、2017年9月上旬にブエノスアイレスにおいてキックオフ的な意味合いを持つ国際研究集会を開催し、本研究の成果の一部を公にし、専門家たちと議論しようとまとまった。ウィルデ博士と前述のペレイラ氏は総数30のイエズス会布教区における「異教徒」に関するデータの包括的な抽出を進めている。「異教徒」は大抵の場合、名簿に表われる「怠惰、しくじり」と形容された先住民を指すことが多く、本研究と並行して異教徒に関わる研究を相互補完的に進めることにより、総体的な研究成果が出てくる可能性が高い。 また前述のアルフィエーリ博士ならびにフィッシュナー博士とも国際研究集会の開催についてやり取りを重ねている。現状では予算の工面ならびに発表者の人選に関して完全な結論は出ていないものの、開催の方向で協議を続けている。 これら国際研究集会の会場は2016年度と同様にイタリアならびにドイツを予定しており、現時点では2018年2-3月の実施で検討している。この機会を利用してスペインにも渡航し、エルナンデス・パロモ博士と協議するほか、スペイン在住の他の研究者とも面会し、本研究のさらなる深化に向けて議論を継続する。
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