研究課題/領域番号 |
15KK0065
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
佐藤 公美 甲南大学, 文学部, 教授 (80644278)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2019
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キーワード | 西洋史 / アルプス史 / ティロル南部 / 公証人 / 公証人文書 / 法文化 / メラーノ/メラン / 年市 |
研究実績の概要 |
2018年度は渡航を実施し、現地古文書館と図書館での資料調査と専門家との研究相談を定期的に継続した。当初予定していた主要未刊行史料調査地はメラーノ市立古文書館であり、まずは同古文書館所蔵の15世紀後半公証人登記簿を順次閲覧し転写と写真撮影と分析を行った。同時に随時関連する他類型の史料(裁判帳簿、証書、都市参事会関連文書等)をクロス調査した。また新たにトレント県立古文書館に関連史料が存在することが分かったため、調査と史料撮影を行った。未刊行史料の調査と並行して刊行史料および文献調査をブルーノ・ケスラー財団、トレント市立図書館、ボルツァーノ県立図書館、トレント大学等で行った。また二名の研究協力者と定期的に面会し研究状況の共有を議論を行った。ハンネス・オーベルマイア氏からは古文書読解の指導と助言も受けた。その他関連する専門分野の専門家と面会し随時助言を受けた。 史料の詳細な分析は現在も継続中であるが、これまでの成果から、当該史料群が中世メラーノの年市の実態解明に寄与することが分かった。この年市はヨーロッパ近世化過程におけるアルプス交通と地域経済の動向を解明する上で重要な意義を持つと考えられるが、その実態は史料の不足によりこれまで十分に検討されてこなかった。しかしこの度の滞在研究において調査した史料群がこの年市と周辺での商業活動に関する史料を含んでいることが明らになり、この研究の成果が中近世ヨーロッパの年市とアルプス商業と地域経済の動態の理解に寄与しうると考えられる。 今年度の研究成果の一部は2019年2月19日にトレント大学学術セミナーで口頭報告を行った。また、本プロジェクトの紹介と一部研究成果を含む論文を現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では渡航期間中に途中成果を日本の専門家、特に若手研究者を交えた研究会で議論・共有し、これをもとに日欧研究交流ネットワークの形成につなげる計画であった。しかし渡航後、イタリアでの滞在許可証取得のための手続きに長期間を要すことが分かり、その間の一時帰国に困難があるためこの計画は変更し、期間延長を申請し2019年度に研究協力者を招聘して日本でのセミナーを開催することを決定した。このセミナーの準備は現在順調に進めている。 公証人文書の分析は現在継続中であるが、渡航期間中の集中的調査によってこの史料の多様な角度からの分析の可能性が明らかとなった。一方、「概要」欄で記述したようにこの史料によりメラーノの年市に関する有意義な研究が可能であることが明らかになったため、2018年度は当該史料の概要把握と年市研究に集中した。同史料のその他の側面についての研究は残された課題となった。 また複数の専門家の助言によって新たな関連史料の存否を調査すべき公私の複数の文書館の情報も得たが、2018年度中にすべての調査を終えることはできなかったため課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は研究計画実施期間延長申請時の計画に沿い、セミナーの実施と成果のまとめを行う。またメラーノの年市の問題に第一の課題を絞り、これを中心に公証人文書研究の一部成果をまとめることを目指す。 一方、渡航期間中に浮上した新たな史料調査の課題が浮上した。「研究実績の概要」欄にも記載したように、渡航期間中にメラーノ市立古文書館のみならずトレント県立古文書館のメラーノ年市関連史料の調査を開始した。また、「現在までの進捗状況」欄にも記載したように、メラーノの公証人と、メラーノの年市に関する当該公証人と公証人文書に言及のある地域に直接・間接に関連する可能性のある新たな史料の調査も課題として浮上した。これら公私の文書館は各地に分散し調査が困難であり、これら新たな課題への取り組み全てを2019年度中に行うことは困難であるため、今年度はまとめるべき課題を絞り、新史料による今後の新たな研究の方向付けを行う。
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