科研費研究成果公開促進費を得て『世界文学と日本近代文学』(東京大学出版会、2019年11月)を刊行した。2016年度にオックスフォード大学で、2017年度に国文学研究資料館で開催した国際シンポジウム「文学の‘DNA'―世界文学と日本近代文学」においての各人の発表原稿を加筆し、精度を高めた論文、ならびに、さらなる論文を追加してなった書物である。編著者:野網摩利子、共著者:ダリン・テネフ、マイケル・ボーダッシュ、スティーブン・ドッド、小森陽一、リンダ・フローレス、谷川恵一。本書は、日本近代文学に密接な関わりのある世界文学を見出しながら、日本近代文学作品の産出される過程をあぶり出す。本書の刊行により、日本近代文学にとっての、世界文学の役割、世界史的文脈、作品の成立状況、翻訳までの受容過程が解明された。日本近代文学研究から世界レベルの知の再編成がなされた画期的成果である。 国内外で反響大きく、英語版の慫慂があった。ゆえに、セシル・サカイ(パリ大学)をあらたに執筆者に迎え、内容を刷新した英語版作成に取り掛かった。本世界文学論で新設した文学理論用語「文学の‘DNA'」を周知し、汎用可能性を示すためのワークショップを2019年3月13日に計画していた。発表者はダリン・テネフ、セシル・サカイ、共同討議者は野網摩利子、谷川恵一、マイケル・ボーダッシュの予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により、3月の時点では日本への渡航が危ぶまれたために、やむなく中止となった次第である。しかしながら、英語版“From World Literature to Japanese Modern Literature”の執筆を上記共著者で推し進め、完成を目前にしている。
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