研究課題
本研究課題による海外渡航は平成28年度中に完了している.本研究課題は,日本手話研究を従来の用例・母語話者の直感ベースの研究ではなく,自然な対話データを収録したコーパスを用いるなど,データ中心科学の手法で手話言語研究をパラダイムシフトさせることを目的としていた.そのために,(1) 基課題のSMUアノテー ションの手法を海外の関連研究者と議論・共有,(2) SMUアノテーションを付与した対話データを用いた修復連鎖とマウジングの研究 ,(3) 海外の手話言語コーパスに対し,本手法を適用し,比較言語学の枠組みを構築,(4) 論文共同執筆を予定していた.平成28年度はこれらのうち(4)が実現に至っていなかった.平成29年度は7月にベルファストにおいて実施された国際語用論学会の前にマックスプランク心理言語学研究所に立ち寄り,出産・育児休暇を終えた共同研究者のDr. Connie de Vosとの会合を持った.懸念事項であった論文共同執筆について,人文科学系研究の進め方として,まず個別に論文を執筆し,共同執筆の可能性を探るという結論に落ち着いた.この結果,Minpaku Sign Language Studies (2)に単著論文を投稿準備中である.その他,国際ジャーナルへの投稿も目指し,準備中である.
2: おおむね順調に進展している
論文投稿が完了していないことが,「(2)おおむね順調に進展している」を選択した理由の一つである.しかしながら,それ以外については当初の計画以上に進んでいる.例えば日本帰国後,様々な会議で講演を依頼され,オランダでの研究活動やオランダの手話研究に触れたことによってより明確になった理論枠組み等について,日本の関連研究者と共有する機会を得た.上述した日本国内の会議の一つが,日本学術会議言語・文学委員会科学と日本語分科会主催,公開シンポジウム「音声言語・手話言語のアーカイブ化の未来」である.ここでは,日本のろう教育と自身の手話相互行為分析の関連に触れ,言語学が社会に貢献できる可能性を十分に示すことに成功している.その他にも,第41回社会言語科学会研究大会(JASS) 20周年記念シンポジウムに優秀若手研究者3名のうち一人として選ばれ登壇し,本研究課題で得た成果の一部を発表し,多方面からのコメントを得た.
今後の研究の推進方策としては,平成29年度に完了しなかった英語による論文執筆を前期中に完了させ,共同研究者のDr. Connie de Vosと共有し,共同論文執筆に向けてスカイプもしくは対面での議論を進めたいと考えている.また,本研究課題開始後,基盤研究(B)特設分野,基盤研究(A)一般にそれぞれ関連研究課題が採択され,新しい研究の方向性が定まりつつある.これらの発展的展開をさらに推進し,手話相互行為研究における国際的な地位を確立することを目指す.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 7件、 招待講演 7件) 図書 (5件) 備考 (3件)
社会言語科学
巻: 19 ページ: 59~74
https://doi.org/10.19024/jajls.19.2_59
質的心理学研究
巻: 16 ページ: 25-45
http://research.nii.ac.jp/~bono/ja/index.html
http://research.nii.ac.jp/jsl-corpus/public/
http://research.nii.ac.jp/jsl-corpus/research/index.html