研究実績の概要 |
本研究は,文化に固有の対人認知の個体発生的起源と伝達過程の解明を目的とする。具体的には,乳幼児期における特性推論や社会的評価の発達が,文化による影響をどのように受けるかを実験的アプローチにより検討した。
2018年度は,6ヶ月から18ヶ月の乳児の社会的評価の発達を馴化・脱馴化法および選好リーチングにより検討した研究の成果について,Infancyという国際雑誌に掲載された。日米のいずれにおいても15-18ヶ月児から向社会的人物と反社会的人物の区別ができること,またそこには母親からの語りかけによる影響が見られることを示した。また日米の3・4歳児を対象とし,他者の行動から「いい子」「悪い子」といった道徳的特性を推論する能力の発達を実験的に検討した研究の成果について,国際雑誌に投稿した。言語的反応のみならず,アイトラッカーにより視線も測定することにより,implicit, explicit両面の道徳判断の文化差について明らかにできたと考えられる。 さらには,日本国内における比較文化アプローチによる発達研究のさらなる進展を目的とし,日本発達心理学会第30回大会において「社会的認知発達における比較文化研究の現在」というシンポジウムを企画し開催した。
研究期間全体を通じた成果については,1つ目のリサーチクエスチョン「いつ,どのように,文化に固有の対人認知が現れるのか?」に関して,約3歳頃から見られることが示唆された。2つ目のリサーチクエスチョン「文化の伝達は,どのように行われるのか?」に関しては,前言語期の乳児期からの親からの語りかけが,子どもが他者の行動を解釈するための足場かけ(scaffolding)となり,文化に固有の注意過程や道徳発達が伝達され得ることが示唆された。また文化心理学的アプローチによる発達研究は世界的にも少ないが,その研究拠点を本国において構築することができたと考えられる。
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