本研究は2011年の民政移管後に進んだミャンマーの政治的自由化の背景にある国軍の組織的利益の変容について多角的に検討し、また、同国の現代政治における 国軍の政治的影響力を明らかにすることを目的とする。平成30年度は、共同研究先のヤンゴン大学国際関係学科での長期滞在を4月末に終え,帰国後は短期(5月,7月,8月,2月)での出張を実施して調査を継続するとともに,成果のとりまとめを進めた。そのうえで,年度後半には,共同研究機関と共催で研究成果を検討するセミナーを複数回開催した。まず,11月に東南アジア学会関西例会との共催でセミナー「現代ミャンマー政治の原点をめぐって」を開催し,国軍の政治介入の起点となった1988年民主化運動とクーデターについて国内のミャンマー研究者を招聘して検討した。次に,11月に"Formation of Identity Politics in Myanmar"というタイトルで国際セミナーを開催した。本セミナーのためにミャンマーから2名の若手歴史研究者を招聘し,研究代表者も報告と討論の役割を務め,現在激しい武力紛争が起きているミャンマー・ラカイン州の歴史とアイデンティティ政治について議論した。第3に,1月に”Myanmar Military in a Time of Transition”というタイトルで,共同研究期間であるヤンゴン大学から3名,日本からミャンマー国軍の専門家を4名招聘してセミナーを開催した。本国際共同研究の成果にくわえて,防衛外交,和平交渉,警察,経済的役割などについて議論した。最後に,3月に,今後の共同研究の方向性を探るために,ミャンマーからジャーナリストと安全保障関係調査NGOの代表を招聘し,日本の実務関係者もまじえながら2日間にわたってミャンマー国軍に関する意見交換を行った。
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