これまで国内の鮨屋などで実施してきた、サービスにおける顧客と提供者のインタラクションの分析を、フランスのレストランで実施し比較分析すると共に、近年注目が集まっているサービスデザインやサービス科学との節合を行なった。フランスのホスピタリティ教育研究機関であるアンスティチュ・ポール・ボキューズの協力を獲得し、レストランにおいてワインテイスティングの様子などをビデオに記録し、分析した。国内の鮨屋と同様にフランスにおいても、サービスは参与する人々の自己呈示が大きく関わることが示された。経験の少ない客は、ワインの注文に対してワインリストを誰が受け取るのかについてその責務を回避しようとする様子や、ワインをテイスティングした後、了承を求められたとき緊張感が高まりテーブルに笑いが生じる様子が観察された。 ワインの味がわかり、気のきいた表現ができることが規範となり、その規範に対して自分のふるまいが必ずしも合致していないことが示された。一方で、経験の豊富な客は、そのふるまいを通して、自らの知識や経験を呈示する。ワインテイスティングの儀礼を丁寧にこなし、さらにそのワインに対して何らかの留保をつけることで、ワインを吟味できる能力があることを示し、また提示されたワインに関して自分はもっといいものを知っているし、期待しているという身振りが観察された。 サービス科学に関しては、サービス科学の中心的研究者らが領域を包括的にまとめたHandbookに発表した。サービス科学の中心的コミュニティの一角を形成し、経営学組織論領域から、あるいは日本の研究コミュニティからの数少ない貢献として重要な成果であると言える。サービスデザインに関しては、従来のサービスデザインが人間中心設計を基礎としていることを批判し、人間-脱-中心設計を提唱し、広い範囲のチャンネルを利用して情報発信した。
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