長期的関係において意思決定主体が有限記録をもつ場合の評判効果について理論的分析を行った。長期的プレーヤー(企業)が一連の短期的プレーヤー(消費者)と製品選択ゲームと呼ばれるゲームを無限にプレーする状況を分析している。分析では各短期的プレーヤーは長期的プレーヤーが過去に選択した行動を観測することはできないが、長期的プレーヤーが選択した行動に関する不完全な公的なシグナルを観測できるものと仮定される。つまり、不完全公的観測と呼ばれる観測構造を想定している。多くの既存研究では短期的プレーヤーが無限の記録を持つものと想定されれるが、本研究では短期的プレーヤーが有限の記録のみを持つものと想定する点において新しい研究と言える。また、長期的プレーヤーにはタイプがあり、社会的な観点からは望ましくない行動にコミットする可能性がある(バッド・タイプ)ものと仮定される。既存研究では逆に社会的な観点から望ましい行動にコミットする可能性があるものと仮定されるものが多い。本研究では、短期的プレーヤーが無限の記録を持つより、有限の記録を持つ場合の方が効率性が高くなることがあることを明らかにした。常識的には過去の記録が多ければ多いほど社会厚生は高くなると考えられることがあるが、必ずしもそうではないことを示した。短期的プレーヤーは長期的プレーヤーの行動に関する不完全なシグナルのみ利用可能であるため、記録が有限であるほうが、バッド・タイプでない長期的プレーヤーが運悪くバッド・タイプであると判断される確率が小さくなることが結果を導く理由である。 本研究は、2016年2月から8月までの半年間をイェール大学コウルズ研究所で客員研究員として滞在し、共同研究者であるイェール大学のEduardo Faingold准教授との共同研究として進められた。帰国後はスカイプなどを利用し、研究を進められた。
|