研究課題/領域番号 |
15KK0110
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑中 綾子 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 客員研究員 (10436503)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2017
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キーワード | 終末期医療 / 医療同意権 / 事前指示 / 成年後見 |
研究実績の概要 |
終末期における意思決定支援において司法がどのように関与するかの点について、香港大学との連携のもとでの研究を行った。認知症などにより自ら意思を表明することが困難になった高齢者において、医療行為の同意をどのように得るかは大きな課題である。日本同様に高齢社会問題を抱える香港における医療同意の制度状況や社会的課題を調査した。 認知症等により、自らの意思表明が困難となった成人に対して、香港ではイギリスの意思能力法を踏襲した成年後見制度、および任意後見法が制定されている。前者の成年後見においては後見人および裁判所に医療同意権が認められる。申請原因のほとんどが財産管理であるが、数件の医療同意を理由とする申請もある。 一方で任意後見である持続的代理権(Enduring Power of Attorney)は、法定の成年後見に比べて、事前に本人の意思をもって代理人を選任しておけること、代理人を選任するために必要な高額で煩雑な裁判手続きを回避できるなどのメリットがあるとされるものの、やはり制度が複雑であり、申請件数はわずかである。対象は財産行為のみで、医療行為への同意権は認めていない。そこで、高齢者本人が事前に意思を表明し、書面化しておく事前指示(Advance Directive)の利用が期待される。但し、現状の普及は十分ではない。日本の成年後見制度においては、後見人に医療同意権が認められておらず、これを認めるべきであるとの提言も近年なされている。この点、香港では、制度上医療同意権が認められているが、だからといって必ずしもこの医療同意権の利用が進んでいるわけではない。本人の意思をどのように残しておくべきか、本人の意思決定の重要性について社会的認知を向上させるといった共通の課題があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
香港と日本における終末期医療の意思決定支援プロセスにおける異同の概要を知ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
終末期における延命治療の実施もしくは中止の決定に関し、患者本人の意思表明がない場合に、香港では裁判所による決定ができるとの条文がある。この条文の実施状況や、本条文があることによる医療者や家族の決定環境への影響について、事例調査や専門家へのインタビュー調査を実施することが考えられる。 それにより、終末期医療の決定プロセスに対する司法の機能について、日本と香港の比較や、他国の状況に関する分析が可能になると考えられる。
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