研究課題/領域番号 |
15KK0120
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石井 敬子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10344532)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 文化 / 価値 / 認知 |
研究実績の概要 |
当該の文化において歴史的に培われてきた意味体系や信念、価値、社会規範は、それらが内包された慣習の日常的な実践や文化的産物への接触を通じ、そこに生きる人々に対してそれらに応じた心の性質を招来する。そして個々人は、その意味体系や信念、価値、社会規範を再生産していく。文化と人の心の性質との相互構成過程を理解するには、この2つのプロセスが不可欠である。本研究課題では、主に、1) 人から人へ文化的産物が再生されていく過程において、当該の文化において優勢な価値が意識されることなく付与されていく結果、出発点が同じであっても、最終的な産物は当該の文化において優勢な価値を帯びた性質を伴い、文化間で大きく異なること、2) 文化化による影響は、文化的産物に対する好みのみならず、その産出そのものにも見られることを検討することを目的とする。具体的には、連続再生法を用い、1) 他文化の状況よりも自文化の状況が再生されやすく、特にアメリカにおいて優勢とされる自己高揚傾向や日本において優勢とされる自己批判的傾向を踏まえると、そのような自文化優位性は、アメリカでは成功状況において、一方日本では失敗状況において顕著だろう、2) 成功・失敗経験の表象の文化差は、特性自尊感情 や接近・回避の動機づけの程度によって媒介されるだろうといった可能性を調べる。さらに探索的に日米の小学生を対象としたデータも収集することで、成功・失敗経験の表象の文化差がどのようにして表れるかについても調べる。今年度は、ヴァージニア大学に滞在し、共同研究を開始し、アメリカでのデータ収集を行った。また対応する日本でのデータ収集も神戸大学で開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年12月に研究を開始し、その年度末までに日米それぞれにおける典型的な成功状況と失敗状況に基づくスクリプトを用意した後、2017年の8月に渡米した。そしてヴァージニア大学に滞在し、受け入れの共同研究者の大石繁宏教授や大学院生とミーティングを重ね、本研究の内容について議論した。本研究がもともと踏まえていたのは、文化的産物、とりわけ塗り絵といった文字情報に依存しないものであっても、そこに文化的価値が内在し、当該の文化の個々人の好みがその価値を維持するような形で機能しうるという研究代表者が見出した知見であった。そしてミーティングを重ねた結果、スクリプトのようなナラティブの要素を含む題材よりも、ナラティブな情報を含まない題材を用いたほうがインパクトのある知見が見出せるという結論に行きつき、探索的ながら風景の鉛筆画を題材に、その再生のされ方に日米で差異が出てくる可能性について検討した。ヴァージニア大学では161名のデータを収集し、その風景画に含まれる要素がどの程度正確に再生されたか、中心事物の大きさや地平線の高さに変化は見られたのか等について検討した。その後、日本でのデータ収集によって比較しないと結論が見出せないことから、2017年12月に一時帰国し、2018年1月にかけて神戸大学で同じ実験を行い、日本人学生56名からデータを得た。このように日米比較実験はすでに実行できている。もちろん早急に日本での追加のデータ収集が必要であるが、今回の日米比較実験により、スクリプトを用いた実験を追加で行う必要性やおよび発達データを収集する必要性について議論する下地ができており、それ故に概ね順調に進展していると言えると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は2018年4月より所属機関が神戸大学から名古屋大学に変わったが、名古屋大学の心理学実験の参加者プールを使用し、取り急ぎアメリカでのデータとほぼ同数になるように日本人参加者のデータを追加する必要がある。また2018年度も引き続きヴァージニア大学で研究活動を行うことについて、大石教授の許可を得ており、データ収集のために一定期間渡米する予定である。研究代表者が所属する名古屋大学大学院情報学研究科の心理学講座内でも渡米について了承を得ている。そして最終年度でもあるので、分析結果は順次公表していく予定である。
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