当該の文化において歴史的に培われてきた意味体系や信念、価値、社会規範は、それらが内包された慣習の日常的な実践や文化的産物への接触を通じ、そこに生きる人々に対してそれらに応じた心の性質を招来する。そして個々人は、その意味体系や信念、価値、社会規範を再生産していく。文化と人の心の性質との相互構成過程を理解するには、この2つのプロセスが不可欠である。本研究課題では、主に、1) 人から人へ文化的産物が再生されていく過程において、当該の文化において優勢な価値が意識されることなく付与されていく結果、出発点が同じであっても、最終的な産物は当該の文化において優勢な価値を帯びた性質を伴い、文化間で大きく異なること、2) 文化化による影響は、文化的産物に対する好みのみならず、その産出そのものにも見られることを検討することを目的とする。昨年度はヴァージニア大学に滞在し、連続再生法を用いた共同研究を開始し、アメリカでのデータ収集を行ったが、今年度はそれに対応する日本のデータを神戸大学において収集し、参加者の再生のパターンにおける文化的な共通点と差異について分析を行った。特に、文化的な価値を反映したものの見方(分析的注意か包括的注意か)に対応し、アメリカでは中心的な事物における再生率は、日本では周辺的な事物における再生率がそれぞれ高くなった。加えて、子どもの文化的産物に対する親のフィードバックの仕方が文化的産物に対する親の好みを反映した文化的な価値観に対応する可能性についても検討し、その可能性と一致した結果が特に高齢者において強く見られた。さらに今年度はコロンビア大学にも滞在し、共同研究者とともに研究のまとめについて議論した。
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