研究課題/領域番号 |
15KK0129
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
平井 真洋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60422375)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 他者行為知覚 / 認知発達 / 定型発達 / 認知科学 / 実験系心理学 |
研究実績の概要 |
本国際共同研究では,ロンドン大学バークベック校脳認知発達センターにおいて,①実験的アプローチ(乳児脳波計測)に基づく他者動き理解に関する認知発達研究,②理論的アプローチに基づく研究(他者行為知覚発達モデルの構築に関する研究)の双方向から「他者の動き」認知発達に関するプロジェクトを進めた.①実験的アプローチでは,我々がすでに4,9ヶ月児を対象にした眼球運動計測実験で見出した,特定の動きが物体学習を促進させる現象に関する神経基盤を解明することを目指した.このため,我々が開発した眼球運動計測実験用のパラダイムを脳波計測実験に適合するように修正した.その上で実験では,脳認知発達センターに整備されているEGI社製128ch高密度脳波計を用い,9ヶ月児を対象とした脳波計測実験を実施している.本研究費で雇用したリサーチ・アシスタントと協力の上,これまで57名の脳波計測を実施している.現時点においてもリサーチ・アシスタントが脳波データを計測中であり,所定の人数に達するまで計測を継続する予定である.特に学習に関連した,側頭部においてみられる脳波成分を指標とし,特定の動きを観察することにより該当成分がどのように変調するかを検証予定である.②理論研究では,先行研究に関する他者の動き知覚発達に関する知見を集めた上で,受け入れ研究者との議論を重ね,たたき台となるモデルを構築した.特に先行研究において提案されているモデルを下敷きとし,既存の動物行動学,神経生理学,ヒトを対象とした脳機能イメージング研究の知見にもとづくモデルを提案した.本モデルに関する論文は現在執筆中であり,近日投稿予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した研究計画書の通り,ロンドン大学バークベック校脳認知発達センターにおいて,①高密度脳波計測による乳児を対象とした実験研究と②他者知覚に関する発達モデル構築研究の実験と理論研究の両輪で研究を進めた.①実験研究では,既に眼球運動計測によって確立された実験パラダイムを脳波計測用にアレンジし,予備実験の上で本実験を開始した.2019年3月の時点で57名のデータを計測したものの,所定のデータ数に到達していないため現在,本研究費で雇用しているリサーチ・アシスタントがデータを継続して計測している.見込みでは2019年夏頃に計測終了の予定である.②理論研究では,これまでの他者知覚発達に関する知見をサーベイし,受け入れ研究者との議論を重ね,モデルの骨格を構築した.現在論文として執筆しており,近日中に投稿を予定している.以上より,当初計画していた項目について進捗がみられたことから,おおむね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
①現在実施している脳波計測実験では,これまで殆ど着目されていない他者の動きによって促される社会的学習の神経機序を明らかにすることが期待される.本実験により指標が確立されれば,他者の動き理解に基づく社会的学習の成立過程を客観的に評価可能となる.さらに本指標を用いることにより,定型発達児だけでなく,非定型発達児における社会的学習のメカニズムを解明することが期待される.②理論研究では,これまでのモデルでは考慮されていない「他者動き理解」の発達的側面に着目し,既存の実験データを統一的に説明できるようなモデルを構築した.今後は構築したモデルから導き出される予測を検証し,モデルが妥当であるかについて検討する.今回構築したモデルは主として定型発達児に関する知見にもとづき構築したモデルである.今後は,近年報告がある非定型発達児にみられる他者の動き処理の非定型さを説明することができるように拡張・修正を試みたい.
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